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【建築】飛べ!茶室(藤森照信)

諏訪大社神長官守矢史料館を巡る旅の続き。


諏訪大社上社の神長官を代々務めていた守矢家の裏には長閑な畑が広がっている。


畑の中には史料館同様に奇妙な建物が点在している。いや、小屋という表現の方が合っているかもしれない。その外観を一目見れば、建築に詳しくない人でも、設計者は史料館と同じ藤森照信さんだということが分かる。

そう、この建物群こそ常識にとらわれない自由な藤森ワールドの真骨頂、空を飛び、地を這うフジモリ茶室なのだ。


今回は室内に入ることもできたので、順番に見ていこう。


高過庵(2004年)

藤森さんが友人や学生、そして職人さんたちと建てた茶室である。元首相・細川護熙さんのために茶室を設計したが、完成した茶室を見て自分でも欲しくなって制作したそうだ。地上6mの茶室は秘密基地のようでもあり、子供でなくても童心に帰ってワクワクしてしまう。


山から運んできた2本のクリの木に突き刺さるように茶室が固定されている。


本物の木を使っているが、そのままではさすがに心許ないので、土台部分はコンクリートで固めてある。


幹の樹皮も一旦剥がして、改めて釘で留められていた。


一般的な茶室では露地に飛石が置かれ、訪れた人はその上を歩いて茶室に入る。そこには茶室を外の世界と切り離し、浮世の塵を払い去って俗を忘れさせるという意味もあるが、

高過庵では梯子がその役割を担っている。梯子も藤森さんのお手製だ。


ポッカリ開いた入口、茶室でいうところの躙口にじりぐちが期待を高めてくれる。


梯子の片側の支柱が延びているので、手で捉まりやすく出入りしやすい。


おお! 中は意外にも広い!
面積約6平米。この時は7人入ったが、狭苦しさはあまり感じなかった。


人が出入りする度に多少揺れるが、怖いと思うほどではない。ただし高所恐怖症の人はそもそもこの茶室に入ることは難しいだろう。6mって結構高いからね。


天井の金色部分は明り取りを兼ねた煙突。


お湯を沸かすための炉もある。左に見えるのは茶室を固定するクリの木。


素晴らしいのは八ヶ岳が見えるこの眺望。ずっとここに居たくなるほど快適だ。



高過庵の下には小さな祠もあった。茅が一部新しくなっているが、藤森さん自ら葺き替えたとか。



空飛ぶ泥舟(2010年)

地上約3mの高さに4本のワイヤーにより吊り下げられた茶室。茅野市美術館主催によるワークショップに参加した市民と職人さんたちによってつくられた。当初は美術館前の広場にあったが、後に現在地に移されている。


「スター・ウォーズ」に登場する兵器AT-ATをイメージしているという説もある。そう言われるとそう見えなくもない…か?


もちろん素材は泥ではない。構造は木造で、下部は土を塗って仕上げてある。屋根は銅板葺きで、出来た当初はピカピカの銅色あかがねいろだったはずだ。今は酸化して黒色になっているが、この方が周りの景観に馴染んでいる気がする。


こちらも梯子を掛けて入る。高さは約3mと高過庵に比べると少し低い。


天井はまるで船底のよう。テーブルとベンチが固定されていて、定員の7人も入れば身動き出来ないほどぎゅう詰めだった。


足元周りは外観の見た目通り弧を描くように傾斜しているので、移動する時は要注意。油断すると滑ってテーブルの下の潜り込んでしまう。


炉と花入れ(左側の壁に掛けれらている)もある。


左右には跳ね上げ式の窓がある。風が通り抜けて、とても心地良い。


この茶室の窓からも茅野の町が一望できる。


さて、そろそろ下りよう。



そして"高い"茶室があれば"低い"茶室もある。


その名も…


低過庵(2017年)

低過庵も茅野市が企画した市民参加のワークショップで制作された。


屋根しか見えないが、斜面を掘り込んだ竪穴式茶室となっている。屋根は銅板葺きで、こちらも当初は銅色あかがねいろに輝いていた。


反対側の下から見ると古い作業小屋のようにも見える。


壁の仕上げは焼杉。しかし部分的に張られていない箇所がある。なぜ?


この茶室には窓が無い。写真では開いた戸から光が入っているので薄暗い状態だが、閉めると真っ暗になる。右側には壁に組み込まれた炉が見える。その炉のわずかな灯りで静かにお茶することもできるが…、


室内に居ながらにして青空の下でお茶を楽しむこともできるのだ。


なんと屋根がスライドして、茶室の天井がなくなってしまう!


屋根には車輪が取り付けられており、一人の力でも開閉可能になっている。というのは藤森さんがお一人で過ごしたりお客さんをもてなすこともあるからだ。


室内は木の壁に漆喰が横縞状に塗られているが、幅が不揃いなのがまた良き。


ちなみに低過庵の出入口は屋根から。



五庵(2022年)

史料館から少し離れた敷地には、2022年に新たな茶室ができた。
2021年に東京で開催されたイベント「パビリオン・トウキョウ2021」で展示されていた藤森さん設計の「五庵」の廃材を藤森さん自ら引き取って、この場所に再建築したものだ。


外壁の仕上げは焼杉。飛び出した部分は雨戸を納める戸袋。


パビリオン・トウキョウでは芝で覆われた基壇に建てられていたが、ここでは岩の上に建てられている。高過庵や空飛ぶ泥舟と同じく少し不安定さを感じさせるが、わざとそうした効果を狙っているのだろう。


中に入るにはやはり梯子を使うが、残念ながら今回は入る機会はなかった。



ところでこの地の茶室はそれぞれ高過庵が2004年、空飛ぶ泥舟が2010年、低過庵が 2017年、五庵が2022年につくられている。お気付きになったろうか? 満6年間隔、それも御柱祭と同じ年に出来ているのだ。(正しくは前々回の御柱祭は2017年ではなく2016年だが)

ということは2028年にまた新しい茶室が出来るということか?




これら4棟のフジモリ茶室は全て藤森さん個人の所有である。藤森さんの友人・知人が来た時、あるいは藤森さんお一人で過ごすこともある。そして今も藤森さんが時々修復したり手を入れたりしているそうだ。

従って外観は自由に見学できるが、室内を見学できる機会は今までほとんどなかった。しかし現在は「ちの旅」という観光サイトの中でフジモリ茶室を堪能できるアクティビティがある。(2023年11月現在)

興味ある方は諏訪大社への参拝がてら参加されてはいかが?



余談だが見学会に参加したこの日、藤森さんとモデルのはなさんをお見かけした。どうやら月刊誌の連載記事の取材のようだ。発売されたらぜひ読んでみよう。





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