見出し画像

アルヴァロ・シザの建築を見に行ったらテレサ・テンのお墓参りをしてきた話

それは建築メディアで紹介されていたアルヴァロ・シザらの設計による霊廟の記事を読んだ時だった。


アルヴァロ・シザといえばポルトガルを代表する偉大な建築家である。彼の建築は実際に訪れた人たちからの評価も高いが、その多くは地元ポルトガルにあり、私もまだシザ建築は見たことがなかった。しかもこの建築メッチャ良さそうじゃん。
ヨシ、コレを見に台湾に建築探訪に行こう!



記事によれば、場所は新北市金山区としか記載されておらず、詳細な住所は分からない。だが金山区は49km2もある。Google Mapで見たが、広過ぎてどこに霊廟があるのか全く分からない。
諦めかけた時、1枚の写真に写っていた「嘉卿園」という文字をヒントに何とか場所を突き止めた。交通手段についてはこのご時世どうにでも調べられる。あとは現地を訪れるだけだ。

ただ気がかりなことがあった。
この建築が完成したのは2017年というのに、6年経った今でもネットやSNSには「訪れた」という投稿が見当たらないのだ。いや、検索すればヒットするが、冒頭の記事を引用したものばかり。
"ある予感"がしたものの、ここは一つ「私が世界初の現地レポートを書いてやるぜ」という意気込みを持ってそれを打ち消すことにした。



台湾訪問3日目、いよいよシザ建築を訪れる日が来た。今回の旅のメインである。異国での朝はのんびりしたいものだが、ワクワクが止まらず早起きしてしまった。

台北のホテルを出発して、まずはMRTで台北市お隣の淡水駅まで移動。


そこから台湾北部の景勝地を巡る路線バスに乗り継ぐ。


そして台北から2時間半。東シナ海を望む美しい地に降り立った。
ついに来たのだ!


バスの停留所から歩くこと数分。 コンクリートの建築が見えてきた!
いよいよだ!


おお! 良い建築の雰囲気が漂っている。
期待を膨らませて門の前に立つと...



閉まっている...。門が固く閉ざされている。



重要なことなのでもう一度書いておく。


閉まっている...。門が固く閉ざされている。


"ある予感"は的中してしまった。
やはりこの霊廟はプライベートな非公開の施設だった。だから訪れる建築ファンもなく、ネットにも情報がなかったのだ。でも情報無ければ、実際に自分で行って確かめてみなきゃ分からないからね。


失意の中、可能な限り写真を撮った。


裏手のレストランから、コーヒー飲みながら未練がましく眺めたりもした。


しかしさらに虚しさが募るだけだった。


とはいえ、いつまでも気落ちしていても仕方ない。
実は"ある予感"に備えてプランBも用意していた。


このエリアは金宝山と呼ばれる霊園となっている。

まるで都市の郊外に建設された新興住宅地のようだが、山腹には小屋のような大きなお墓が並んでいる。


アルヴァロ・シザによる霊廟もその一つなのだが、この霊園で最も有名なのは、1970年代から1990年代にかけてアジアの歌姫として知られた台湾の歌手テレサ・テンのお墓だろう。私もリアルタイムで覚えている。ただし当時は若かった、というか幼かったということもあり、熱心なファンとは言い難い。それでもいくつかの曲は知っている。


そのお墓「鄧麗君紀念公園」は誰でも訪れることができる。
もちろん私もお参りしてきた。


お墓は綺麗に手入れされ、銅像の周りにはト音記号の形の花壇がつくられている。またセンサーが人を感知すると、彼女の音楽が流れるようにもなっていた。


1995年に彼女が亡くなって28年。今でも訪れる人は絶えない。



帰りは再び海岸沿いを走るバスで台北まで戻ってきた。
その時にテレサ・テンの歌を聴いていたことは言うまでもないだろう。





今回の建築探訪、正直ガッカリはした。でも偶にはこんなこともあるさ。これも旅の面白さの一つだ。

思えば自分の建築探訪はただ建築を見るだけでなく、そこに行く過程も目的の一つになっている。駅を降りて真ん前に建築があるのも良いが、それでは正直つまらない。不便で時間がかかる場所を訪れる方が楽しみや感動も増すというものだ。


そしてこういう体験があってこそ次の探訪への意欲も掻き立てられる。
そう、もう決めた。次はあの建築を訪れると!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?