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言葉のスケッチ

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短編ともつかない、「小話」の投稿です。 これをまとめて「物語」を作っていきたい
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旅はそもそも「story」なのだ

旅はそもそも「story」なのだ

円安のためか、インバウンドの外国人観光客が多い。
だから、列車に乗っていると、日本でありながら外国人に接することが多くなった。で、彼らになにゆえ日本に来るのか。という問をしたことがある。

 すると、彼らは「日本の文化に触れる体験がしたい」と口をそろえて言う。

 特に、一時の「爆買いツアー」の一群とは、ずいぶん変化したような気がする。

 すなわち、彼らは「買い物」だけに来ているわけではなく、日

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献花と九相図

献花と九相図

 その墓地は、半ば観光スポットかもしれなかった。
様々な著名人の墓所でもあったからだ。

 特に暑い日だった。

 それぞれの墓石には、献花があった。
新しいもの、古きもの。枯れてしまった花もそこかしこに見えた。
 
 枯れてしまうとわかりながら、人はなぜ墓前に花を献るのだろうか。

「お墓だから飾るんじゃないかな」

彼女はそう言った。
特に暑い盆の時期だ、墓前に飾られた花など、数日で枯てしまう

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湯島聖堂~良き世は、良き秩序にあり・・か

湯島聖堂~良き世は、良き秩序にあり・・か

中央線御茶ノ水駅。

 懐かしい響きだ、学生時代この界隈は良くほっつき歩いたものだ。今はそんな面影はないが、かつてはここは「学生街」だったし、当時の学生たちは、一時この界隈を占拠し、「カルチェ・ラタン」を夢見た過去があった。
 そんな、幻を夢見た場所でもあった。

 だが、その後いわゆる「学生運動」も下火になり、マチからはそういう記憶もなくなっていった。
 そんな妙な記憶があるこの界隈。彼女は不思

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高齢者の「原宿」                                ~さすが「とげ抜き地蔵参道」

高齢者の「原宿」 ~さすが「とげ抜き地蔵参道」

 まだ都電に乗って移動したいと思った私は、「巣鴨」行ってみたいと彼女に告げた。

「え?なんで?」
「行った事ないんだ。」

 さすがにお互い巣鴨が似合う年齢だからとは、
あまりにも失礼なので言わなかった。
しかし、彼女はケラケラ笑ってこう答えた。

「うん、行きたい。とげ抜き地蔵。案内してあげるわよ。」

 なんだ、すでに行ってたんじゃないか・・。

 しかしながら、自分自身も同じ穴の狢だと感じ

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さて、いざ柴又帝釈天へ ~後編

さて、いざ柴又帝釈天へ ~後編

「ねぇ、一つ訊いていい?」
「え?なに?」

鰻を丁寧に寄せながら、彼女は訊くのだ。

 「鰻重の上と並って、何が違うの?」

そうだ、考えれば素朴な話だ。なんとなく、ざるそばともりそばの違いは何か?くらいの素朴な疑問だ。

 しかし、その答えは簡単である。並、上、特上の違いは、乗っかっている鰻の量の違いなのだ。並だとだいたい鰻二分の一。上で三分の二、特上で一匹まるまるってところか。
 これは店に

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さて、いざ柴又帝釈天へ ~前編

さて、いざ柴又帝釈天へ ~前編

 

京成線高砂駅から金町線に乗り換える

考えればこの金町線という区間も不思議な存在だ。
途中駅は柴又のみ。

昨今相互乗り入れがほとんどの中にあって、この線のみが「独尊」で日々往復を繰り返している。

「世の中がどう変わろうとも、肝心なところは変えちゃなんねえんだぜ」

 なんかそんな声が、どこかから聞こえてきそうな感じがするのだ。そして唯一の途中駅の「柴又」に着いた。

 「うわぁ、なんか別

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雑司ヶ谷の鬼子母神さん

雑司ヶ谷の鬼子母神さん

「そうだ、都電に乗りたいな。」

そんな提案に、ならば入谷の鬼子母神ではなく、雑司ヶ谷の「鬼子母神」を選んだのだ。鬼子母神とは、いわゆる「如来」や「菩薩」ではない。

 まさに元々は「鬼」なのだ。言ってみれば「悟りを開いた鬼」というべきなのかもしれない。

 鬼子母神という存在は、仏教ではなく言ってみればヒンズーの神だ。大乗仏教の巻き返しにインドで生まれた「密教」は、当時のヒンズー教との習合が進ん

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恋愛は理屈じゃない

恋愛は理屈じゃない

・ねえ、好き?

・いきなりだなぁ。

・ボクはキミがが好きだよ

・そっくり返す

・そう、結構うれしい。

・なんだそりゃ

はじまりは確かに「理屈」ではない

望まれた命、そうでない命

望まれた命、そうでない命

 あたしとうっちーセンパイは、同じ布団でなんとなく朝を迎えた。
当然だけれど、直接肌が触れあってる。

 暖かいし、布団から外れた部分が驚くほど冷たい。
こういう温度差は、体でなくても、心においてもあるのかもしれないな。

 そんな哲学的なことを考えたのは倫子ちゃんの影響かなとふと思った。

 「あ・・・はるかちゃん・・。」

うっちーセンパイが、寝ぼけた顔でこっちを見た。
あたし、ついキスしたけ

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