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ショートショート 戦士 こゆき

こゆき「わたしは こゆきっていう 戦士なの
    今は 酒場の マスターを しているけど
    いつか 冒険がしてみたいわ!」

 ようやく酒場をみつけだした。相変わらず田中さんがついてくる。ついてくるだけだ。話しかけても名刺が増えるだけなので無視する。
 出会いの酒場のマスターは小雪さんらしい。戦士か。小雪さんはあれで相当やり手だ。商店街の人ならみんな知ってる。一人で店を切り盛りするの、いつもにこにこしてるけど、大変だったはずだ。

こゆき「あんどうくんは 見どころあるわよ
    わたし あんどうくんの おかしの
    ふぁん だもの!
    おみせ つくるなら
    手伝わせてよ!」

 お店…。
 トロワの物件を探してきたのは小雪さん。正確には、貰い受けてというべきかも。オーナーがもう高齢で、たたむ店を小雪さんが紹介してくれた。後のもろもろは、田中さんがやってくれた。

たなか「俺は 遊び人の たなか といいます
    よかったら 一緒に冒険に出ませんか?
    これ 俺の名刺です!」

 田中さんがまた割り込んできてはじき飛ばされた。何がしたいんだろう。この人。かわいそうになる。でも、同情しちゃだめだ。やつはそれが狙いだ。
 田中さんが近寄ってくる。「!」。だめ。離れる。ついてくる。「!」。離れる。「!」。わかった。わかりました。

たなか「あんどうくん。お店だそう。」

  私欲だ。

  小雪さんに「!」のマークがでて、お店から出てきた。田中さんが飛び跳ねる。

こゆき「やっと その気になったのね! がんばってね! 手伝うから!」

  いや、僕は言ってないよ。お店出すなんて。というか、竜どうなったの。

たなか「俺も手伝います! 俺、本気出すとすごいんです!」

 確かに。本気出すとすごいよね、田中さん。

こゆき「だから。」
たなか「だから、あんどうくんは。」
たなか こゆき「ねずみに気をつけて」

 OPTIONボタンを押す。一時停止だ。
 待っていた。もう一回ぐらいあるだろうと思って。画面が止まる。城下町。
 解除する。すぐに一時停止。
 もう一度。解除する。一時停止。
 画面が変わった。戦闘画面だ。
 上の方にメンバー、というか、僕だけ。あんどうのステータス。
 下にコマンド。
 背景は原っぱ。
 敵はいない。いない?

 もう少し進めないとダメなのかも。
 解除する。一時停止、する前に、画面が真っ赤に変わる。
 遅かったのか。これで遅かったの?
 仕方がない。一時停止を解除する。

GAME OVER
サンタクロースを、信じていますか?
はい・いいえ

 また同じコンティニュー画面だ。
 分岐かなにかだろうか。

 「はい」って押したらどうなるんだろう。

 …。

 ただのゲームだ。嘘をついたっていい。

「はい」

本当に?
はい・いいえ

 ……。

 かさかさと音がした。「とうめい?」と飼い猫の名を呼んでみる。多分違う。とうめいは、あんなに忙しく動かない。今何時なんだろう。ゲーム始めて随分経った気がする。それに、なんだか寒い。ここ、こんなに底冷えするんだったっけ。腰掛けたソファにぶら下がった、両足が凍えて痛い。毛布を、もってくればよかった。なんか、動く気力がない。

 ……。

 「いいえ」

 膝の上を冷気が走った、気がした。ゲーム画面が、城下町に戻る。

ショートショート No.206

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※このショートショートは
12月1日から25日までの25日間毎日投稿される連続したお話です。
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」(全25話)
第三週「真っ赤な嘘つき帽子」4

前の日のお話 | 目次 | 次の日のお話

連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
1st week 「サンタクロースと雪の怪物」

「小さなオルゴール」
「雪の怪物」
「北極圏から徒歩5分」
「泣き虫と弱虫のジンジャーマンクッキー」
「どこかにある、なんでもある本屋」

2nd week「書房 あったらノベルズ」

「書房 あったらノベルズ」
「カフェ 空想喫茶」
「珈琲 小雪」
「宝写真館」
「趣味の店 緑のウール」
「洋菓子 トロワ」
「どこにでもいる、なんでもある本屋」

3rd week 「真っ赤な嘘つき帽子」

「阿蘭陀冬至 別れの始まり」
「勇者 あんどう」
「遊び人 たなか」
「戦士 こゆき」
「賢者 さんた」
「ねこの とうめい」
「誰かのための夜」

4th week 「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」

「雪の中のオルゴール」
「小雪の怪物」
「不思議なバタークッキー」
「サンタの家まで、あと5分」
「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
「ひさしく まちにし」