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ショートショート 泣き虫ジンジャーマンの冒険

 「EURECA!(ユリーカ!)」

 クリスマスイブの夜のことでした。サンタクロースは今頃世界中の子供たちにおもちゃを運んでいます。北極にあるサンタクロースの家。その2階にある小人のおもちゃ工場で、この世の全てのテキストを司るテキストの小人が叫びました。とっておきの羊皮紙を取り出し、思いついたばかりのお話を、羽ペンでさらさらと書き記します。

 「続きは、明日。」

 テキストの小人が呟きました。胸には小人の長のバッジがキラキラと光っています。一番初めのサンタクロースの代からずっといる、長生きで、物知りの、小人の中の小人でした。

 小人のおもちゃ工場でブザーがなって電光掲示板が光りました。工場に2つのオーダーが入ります。不器用な、2人のニンゲンの大人のためのプレゼントです。2枚のクッキーが運ぼうとした、2人の願いを叶えるために。

 歓声があがりました。サンタクロースが1年がかりで準備したクリスマスのお菓子のおかげで、どの小人もご機嫌でした。

「クリスマス最後の魔法だ!」
 テキストの小人が大声を張り上げました。
「張り切って作るぞ! 楽しみながら、踊りながらだ! お菓子をつまむことも許可する!」

 わあ、と声が上がって、小人たちが働き始めました。
 音楽の小人がギターをかき鳴らします。
 みな、合わせて歌い出しました。踊り出す小人もいました。もちろんお菓子もつまみました。
 この日だけは、北極の空に雪は降りません。サンタクロースが無事帰ってこられるよう、雲も遠慮をするのです。

 静かな大地で、サンタクロースの家だけが賑やかで、まるで、ダンスパーティのようでした。

※リンク先で、小人の工場にかかっている音楽が聞こえますよ。

ショートショート No.214(共同制作)

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※このショートショートは
12月1日から25日までの25日間毎日投稿される連続したお話です。
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」(全25話)
第四週「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」5

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連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
1st week 「サンタクロースと雪の怪物」

「小さなオルゴール」
「雪の怪物」
「北極圏から徒歩5分」
「泣き虫と弱虫のジンジャーマンクッキー」
「どこかにある、なんでもある本屋」

2nd week「書房 あったらノベルズ」

「書房 あったらノベルズ」
「カフェ 空想喫茶」
「珈琲 小雪」
「宝写真館」
「趣味の店 緑のウール」
「洋菓子 トロワ」
「どこにでもいる、なんでもある本屋」

3rd week 「真っ赤な嘘つき帽子」

「阿蘭陀冬至 別れの始まり」
「勇者 あんどう」
「遊び人 たなか」
「戦士 こゆき」
「賢者 さんた」
「ねこの とうめい」
「誰かのための夜」

4th week 「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」

「雪の中のオルゴール」
「小雪の怪物」
「不思議なバタークッキー」
「サンタの家まで、あと5分」
「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
「ひさしく まちにし」