ショートショート 遊び人 たなか
王「よくきた！ ゆうしゃ あんどうよ！
おぬしも 知っての とおり
夜の やみを りゅうが やぶろうとしている！
りゅうを たおす 旅にでたい という
おぬしの 願い
言われなくても わかっているので
しかと 聞き届けたぞ！
さっさと りゅうを 倒し
世界に くらやみを とりもどすのぢゃ！」
母親にお城に連れて行かれ、一方的に王様に旅に出された。城を出るなり、ついて来るキャラクターがいる。嫌な予感がして、無視をする。追いつかれて、隣に並ばれるたびに、話せるよ、という意味の『！』のマークがつく。
とりあえず、道具や防具を買うのが先決だろう。街を歩く。さっきのキャラクターが全然諦める気配をみせない。著しく目障りだ。根負けする。「！」のマークが出た。話しかける。
たなか「俺は たなか という 遊び人だ！
君は 見どころがある！
力になりたいんだ！」
あんどうは たなかの名刺 を 手に入れた！
陽気な効果音とともに田中さんの名刺が手に入った。
嬉しい？
田中さん、誰にでもすぐに名刺渡すから、価値ないよ？ ゼロというか、マイナスだよ？ あの人と連絡先交換するといつでも無限に電話かかってくるもん。
捨てるのもかわいそうな気がしたので、もらったままにして、道具屋を探す。田中さんがまだついてくる。なんだろう。仲間になるとか？
「！」のマークが出るのを見計らって、話しかける。
たなか「俺は たなか という 遊び人だ！
君は 見どころがある！
力になりたいんだ！」
あんどうは たなかの名刺 を 手に入れた！
陽気な音がして、２枚目の田中さんの名刺が手に入った。
…呪い？
道具屋の看板を見つけて、店主らしきキャラクターに話しかける。
道具屋「夜だから、やってないよ。」
そんなこと言われても。
田中さんが走ってきた。僕と道具屋との間に割ってはいる。
たなか「そんなこと言わずに、何か売っておくれよ！」
道具屋「嫌だよ！ なにこの人！」
たなか「俺と ユミさんの仲じゃないか！」
道具屋「なんで私の名前知ってるの？！」
たなか「俺の人脈をなめんなよ！」
…なんだろう。強烈に恥ずかしい。
店出した時のことを思い出す。店の備品はほとんど田中さんが調達したものだ。なんだか、強烈な値段で。いい意味で。いや、悪い意味で。いい意味…。
たなか「しょうがない！ 半額で手を打つよ！」
道具屋「売らないって言ってるでしょ？」
たなか「じゃあこうしよう！ 在庫もそっくり引き取ります！ それで半額！」
…悪い意味。悪い意味しかない。
ばちん、と田中さんがゴムボールみたいに道具屋から弾き出された。店の扉がボタンを押しても反応しなくなった。田中さん……。
田中さんのキャラクターがこっちに近寄ってきて、隣にならんだ。「！」のマークが出る。いいよ。別に。聞きたいことないよ。無視して歩く。ついてくる。「！」のマーク。いいって。「！」。…。根負けして話しかける。
たなか「ごめんなさい……。」
あ。うん。うんうん。そうだね。悪気ないんだよね。本質が迷惑な人なんだよね、田中さん。
たなか「おわびに、店出すの手伝うからさ…。」
龍倒すんじゃないの？
たなか「コンサル料は半額にするよ…。」
金取る気なんだ。
たなか「だから、お前は、ねずみに気をつけろよ。」
画面にノイズが走った。戦闘画面？が一瞬見えて、ダン、という効果音とともに画面が真っ赤になり、すぐに真っ暗になった。文字が浮き出る。
GAME OVER
サンタクロースを、信じていますか？
はい・いいえ
…今、何が起こった？
というか、何このコンティニュー画面。
…。
…。
「いいえ」を押した。
首筋に、なにか冷たいものが触れた。振り向く。何もいない。
どこかで、笑い声が聞こえた気がした。
ショートショート No.205
※このショートショートは
12月１日から25日までの25日間毎日投稿される連続したお話です。
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」（全２５話）
第三週「真っ赤な嘘つき帽子」３
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
1st week 「サンタクロースと雪の怪物」
「小さなオルゴール」
「雪の怪物」
「北極圏から徒歩５分」
「泣き虫と弱虫のジンジャーマンクッキー」
「どこかにある、なんでもある本屋」
2nd week「書房 あったらノベルズ」
「書房 あったらノベルズ」
「カフェ 空想喫茶」
「珈琲 小雪」
「宝写真館」
「趣味の店 緑のウール」
「洋菓子 トロワ」
「どこにでもいる、なんでもある本屋」
3rd week 「真っ赤な嘘つき帽子」
「阿蘭陀冬至 別れの始まり」
「勇者 あんどう」
「遊び人 たなか」
「戦士 こゆき」
「賢者 さんた」
「ねこの とうめい」
「誰かのための夜」
４th week 「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」
「雪の中のオルゴール」
「小雪の怪物」
「不思議なバタークッキー」
「サンタの家まで、あと５分」
「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
「ひさしく まちにし」