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ショートショート 阿蘭陀冬至 別れの始まり

時は戦国 永禄11年。冬のことでございました。
大阪、堺の近くで織田信長と松永久秀が陣をしいての睨み合い。
戦国時代のことでございますから
まだキリシタンの取り締まりもございませんで
両軍にはキリシタンの武士が多数、含まれていたそうでございます。

その頃、堺の教会には、かの有名な
イエズス会司祭のルイス・フロイスがいらっしゃいまして
この事態を酷くお嘆きになられました。

「ああ。なんということだ。
 クリスマスの聖なる夜に、信者同士が殺し合いを行うとは。」

教会の向かいの屋敷を借り受けまして、金銀細工で、それは美しく飾り付けました。そして両軍のキリスト教信者に、今日だけは、戦いの手を止めて、共にクリスマスを祝おうと、こう呼びかけたのでございます。

フロイスのこの呼びかけに、教会近くで対立していた両軍のキリスト教信者の武士たち70名ほどが集まりました。
参会していた他の信者たちとともに、敵味方なく、肩を並べ、懺悔をし、ミサを行い、和気あいあいと、互いに食事までとりました。

そして、その奇跡のような夜が終わると、また敵味方に分かれて立ち去ったと伝えられております。

夜が来れば朝が来るように、春が来れば冬が来るように
私どもは呆れるほどに、同じことを、同じように、
ぐるぐると繰り返して過ごしております。
まるで回る円盤の上を走るよう。
出会いがあれば別れがあり、別れがあれば出会いがある。

昔、この商店街にも
奇跡のような出会いの夜がございました。
男と女が恋に落ち 青年が夢を取り戻す
本当に、奇跡のような出会い。
けれどそれは別れの始まりでもございました。

かつての奇跡の場所も
今では雪のように日常が降り積り
覆い隠された奇跡の名残は
もはやどこにも見当たりません。

円盤は周り
日常が巡り
もうすぐ、またクリスマスがやってきます

北極のサンタクロースの家では
雪の怪物がオルゴールを持ち去りましました。
そして、この商店街には
魔法のジンジャーマンクッキーが
帰る方法がみつからなくて
一人途方に暮れております

サンタクロースの小人の伝票でオーダーされた魔法の円盤
その円盤が一人の青年の手に渡りました。

雪のように白い機械に差し込み
ぐるぐると回転する運命の歯車

商店街にサンタクロースに
その昔何があったのか
これから先が面白くなるところでございますが
今日はこれで 失礼をいたします。


「にゃあお!(名調子!)」
 猫の集会所で、縞猫が小さな声をあげました。水色のリボンの首輪をしています。
「にゃあお!(ありがとうね!)」
 さっきまで声をはりあげていた白と黒のぶち猫がいい声で鳴きました。
「にゃーん?(明日は、続きが聞けるの?)」
「にゃーお。(明日からは、忠臣蔵だよ。)
「にゃ?(どうして?)」
「にゃあ。(この話の続きは、あたしも知らないんだ。)」
縞猫は、首をかしげました。
「にゃー(もう遅いから、帰えんな)。にゃん(『とうめい』)。」
「にゃん。」
『とうめい』と呼ばれた縞猫が、頷いて立ちあがります。家路を急ぐのです。
もうすぐ、飼い主の安藤くんが帰って来ます。

ショートショート No.203

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※このショートショートは
12月1日から25日までの25日間毎日投稿される連続したお話です。
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」(全25話)
第三週「真っ赤な嘘つき帽子」1

前の日のお話 | 目次 | 次の日のお話

連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
1st week 「サンタクロースと雪の怪物」

「小さなオルゴール」
「雪の怪物」
「北極圏から徒歩5分」
「泣き虫と弱虫のジンジャーマンクッキー」
「どこかにある、なんでもある本屋」

2nd week「書房 あったらノベルズ」

「書房 あったらノベルズ」
「カフェ 空想喫茶」
「珈琲 小雪」
「宝写真館」
「趣味の店 緑のウール」
「洋菓子 トロワ」
「どこにでもいる、なんでもある本屋」

3rd week 「真っ赤な嘘つき帽子」

「阿蘭陀冬至 別れの始まり」
「勇者 あんどう」
「遊び人 たなか」
「戦士 こゆき」
「賢者 さんた」
「ねこの とうめい」
「誰かのための夜」

4th week 「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」

「雪の中のオルゴール」
「小雪の怪物」
「不思議なバタークッキー」
「サンタの家まで、あと5分」
「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
「ひさしく まちにし」