見出し画像

ショートショート ひさしく まちにし

 北極の、暗く、凍てついた夜。
 ほんのわずか、東の空が明るくなって太陽が登ろうとしていました。
 昨日よりも早く。昨日よりも長く。

 サンタクロースは3階の、自分の部屋で書き物をしているところでした。
 指が震えていたのは、寒さのせいだけではありません。
 自分の代で追加できる「サンタクロースの誓い」、その最後の3つ目を書き記しているところでした。

一つ、もしも望むなら、サンタクロースの家に愛する人と住んでも良い。

 玄関のチャイムがなりました。
 あわてて立ち上がります。勢いが良すぎて椅子をひっくり返しました。かまわず、階段を駆け下ります。2階で小人たちにひやかされて、それも無視して、階段を転げ落ちるようにして1階。大急ぎで玄関を開けました。

 ほんの少し粉雪が吹き込みました。外は珍しく穏やかに晴れていました。
 商店街の人たちにセーターやら、マフラーやら、着られるだけ着せられてダルマみたいになった小雪さんが、顔を赤らめて立っていました。

 「これ。」
 小雪さんが、北極行きの飛行機のチケットをサンタクロースに差し出して見せました。
 「枕元に、置いて行った?」

 サンタクロースは首を振ります。
 「いや。僕じゃないんだ。」
 自分の後ろの、一回り増築されたサンタクロースの家を見上げました。
 「これも、僕じゃ……。」

 いいかけたサンタクロースに小雪さんが抱きつきました。
 「かまわない。誰でも。」
 それからサンタクロースから身を離して、少しずつ真っ白な大地が明けていく様子を眺めました。
 「私、ずっとここに来たかった気がする。」
 まばたきすると、目から星がこぼれました。
 「やっと、来れた。自分じゃどんなに頑張っても叶わなかったのに。」
 サンタクロースの目をじっと見つめます。「不思議ね。」そして笑いました。心からの笑顔です。「いつだって願いを叶えてくれるのは自分自身なんかじゃなくて、自分じゃ思いもよらなかったような、誰かなの。」

 長い夜が終わり、また1日が始まります。昨日よりも力を取り戻した太陽を伴って。静かに、着実に。

 2階の窓から、音楽が聞こえてきました。懐かしい、あの音。今度は別れの曲ではありません。やがてくる春の訪れを、オルゴールが歌っていました。
※リンク先で、テキストの小人が2階で鳴らしているオルゴールの音が聞こえますよ。

ショートショート No.215

連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険
1st week 「サンタクロースと雪の怪物」

アートボード 1

「小さなオルゴール」
「雪の怪物」
「北極圏から徒歩5分」
「泣き虫と弱虫のジンジャーマンクッキー」
「どこかにある、なんでもある本屋」

2nd week「書房 あったらノベルズ」

アートボード 1

「書房 あったらノベルズ」
「カフェ 空想喫茶」
「珈琲 小雪」
「宝写真館」
「趣味の店 緑のウール」
「洋菓子 トロワ」
「どこにでもいる、なんでもある本屋」

3rd week 「真っ赤な嘘つき帽子」

アートボード 1

「阿蘭陀冬至 別れの始まり」
「勇者 あんどう」
「遊び人 たなか」
「戦士 こゆき」
「賢者 さんた」
「ねこの とうめい」
「誰かのための夜」

4th week 「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」

アートボード 1

「雪の中のオルゴール」
「小雪の怪物」
「不思議なバタークッキー」
「サンタの家まで、あと5分」
「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
「ひさしく まちにし」

25日間に渡りました
連作「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
これにて閉幕です。

ここまで読んでいただき
どうもありがとうございました。
皆様に素敵なクリスマスが
訪れますように。

TAHNK YOU! THANK YOU!!

画像5

※このショートショートは
12月1日から25日までの25日間毎日投稿される連続したお話です。
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」(全25話)
第四週「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」6(終わり)

前の日のお話 | 目次 |