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ショートショート 勇者 あんどう

 田中さんのくれたディスクは、家のPS5にすんなり入った。聞いたことないタイトルだ。やらないときっと電話かかってくる。やってもかかってくる。しばらくして凄い回転音がした。中でディスクが割れたんじゃないかと思った。慌てて取り出そうとする。流石にハードまで持ってかれるのはやばい。

 本体を触っていると、モニターが光った。回転音もおさまった。聞いたことがあるような、ないような音楽。コントローラーを手にとる。

 真っ黒い画面に文字が浮かぶ。

勇者よ…。
さあ、私の質問に答えるのです…。

 なに?
 いいけど。

あなたにとって、働くことは、退屈なものですか?
はい・いいえ

…いきなり質問に夢なくない?
「はい」

商店街の人たちと話すのは、楽しいことですか?
はい・いいえ

近くに商店街ある人ばっかりじゃないよ?
大丈夫? 売れる? このソフト。
ええと…。「いいえ」。今は、今はね。

何があっても守りたいと思う大切なものがありますか?
はい・いいえ

うざい。
「いいえ」

色んなことを考えて眠れなくなってしまうことがよくありますか?
はい・いいえ

…。
「はい」

あなたにとって、真実とは、つらいものですか?
はい・いいえ

「はい」
大抵つらいだろ。

サンタクロースを、信じていますか?
はい・いいえ

「いいえ」

 一瞬、画面にノイズが走った。画面の前を何か小さな、ネズミのようなものが横ぎったような気がした。寒気がした。けどすぐに消えた。

そうですか…。
これで、あなたのことが少し分かりました…。

 音楽が変わった。
 画面を下から上に、文字がスクロールしていく。

 北極星の下にひび割れができた。
 古代の龍が目覚めたのだ。
 唸り声が響く。
 鋭い鉤爪が、柔らかい夜の闇を切り裂く。

 残酷な太陽の光が
 夜を真っ二つに割ろうとしている。

 全ての夜に潜む鳥たちが
 大急ぎで針と糸を持ってきた。
 縫い合わせよう。夜を守ろう。

 王国の民は絶望した。
 夜がなくなる!
 私たちの愛しい夜が!
 柔らかく、優しく、どこまでも凍てついた、雪と氷に覆われたあの夜がなければ
 私たちはいつどこで涙を流せばいいのだろう!

 文字が全て流れてしまうと、また音楽が変わった。
 新しい文字が浮き出す。

 ※「おきなさい。
   おきなさい わたしの かわいい あんどう

 え? なに?
 名前入力したっけ?

※「おはよう 勇者
  もう朝ですよ

 画面が明るくなった。音楽が変わった。中世風の建物を輪切りにしたような画面が映し出される。

 …ていうか、2Dなの? このゲーム。

ショートショート No.204

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※このショートショートは
12月1日から25日までの25日間毎日投稿される連続したお話です。
連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」(全25話)
第三週「真っ赤な嘘つき帽子」2

前の日のお話 | 目次 | 次の日のお話

連作ショートショート「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
1st week 「サンタクロースと雪の怪物」

「小さなオルゴール」
「雪の怪物」
「北極圏から徒歩5分」
「泣き虫と弱虫のジンジャーマンクッキー」
「どこかにある、なんでもある本屋」

2nd week「書房 あったらノベルズ」

「書房 あったらノベルズ」
「カフェ 空想喫茶」
「珈琲 小雪」
「宝写真館」
「趣味の店 緑のウール」
「洋菓子 トロワ」
「どこにでもいる、なんでもある本屋」

3rd week 「真っ赤な嘘つき帽子」

「阿蘭陀冬至 別れの始まり」
「勇者 あんどう」
「遊び人 たなか」
「戦士 こゆき」
「賢者 さんた」
「ねこの とうめい」
「誰かのための夜」

4th week 「サンタクロースと雪の怪物 (REPRISE)」

「雪の中のオルゴール」
「小雪の怪物」
「不思議なバタークッキー」
「サンタの家まで、あと5分」
「泣き虫ジンジャーマンの冒険」
「ひさしく まちにし」