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【感想】「よふかしのうた」、うっかりアニメから入ると原作が後出しのトンカツになってしまう件

このNOTEは人気アニメランキングで全7539作のなかで第841位(2023/11/19現在)と割かし高評価を受けている「よふかしのうた」の感想のようなものです。条件としては原作を読んでいない状態でアニメを1度通し見する一発勝負で、個人的に思ったところを抽出してみました。本当に1度しか見ていないので、見間違えしたまま書いている可能性があることをお断りしておきます。また、ネタバレがありますので未視聴の方はブラウザバックを推奨します。それでは、行きましょう。


【作画】夜の色彩・光の使い方のセンスが素晴らしい

本作は作画が控えめに言って神がかっていて、丁寧で一気に惹き込まれました。夜更かしを謳っているだけあって、キャラの心情を演出する夜の光と影、そして色彩の使い方のセンスが突き抜けています。とりわけ印象に残っているのは夜空で、都会なのに満天の星が目の前に迫っているように表現しているところが好きなポイントですね。「我々にはこう見えてますよ」っていう制作には恐れ入りました。現実もそうあってほしいなぁと思わされましたもん。

【曲】作品への没入から引き離す爆音の曲が邪魔(-3点)

気になったのは、演出になっているのか分からない爆音の曲やらBGMが所々挿入されていたことです。ED付近でそれをされると、それまで築きあげてきた雰囲気を壊されるというか、作品への没入から引き離されて余韻が薄まります。少し音量を控えめにしてくれたら良かったです。

【キャラ設定1】吸血鬼設定がふわついている感じ(-7点)

本作は「小林さんちのメイドラゴン」と作品構造がよく似ています。下記の対応表に示しますように、作品の根幹に関わってくる要素を反転させているような印象があります。

作 品 : メイドラゴン ⇔  よふかしのうた
主人公 : 社畜OL   ⇔  男子中学生(14才)
異種族 : ドラゴン   ⇔  吸血鬼
舞 台 : 昼メイン   ⇔  夜メイン
目 的 : 異種間交流  ⇔  異種同化
社会性 : 社会的    ⇔  非社会的

両作の設定の違い

まず、異種族として吸血鬼を選んだ理由がいまいちしっくりこないのです。一般的な認識ともいえる吸血行動と日光が弱点の他に、異常な身体能力、飛行能力、壁のすり抜けがあり、これらは他の異種族でも代用可能だからです。ウケるためには美少女ありきで、それ以外は何でも良かったのでしょうか。とってつけた吸血鬼の設定はどことなく作り込みの甘さを感じます。深く考えなければ飛ばせる点ですけれど、そういうディテールへのこだわりがあれば個人的に納得がいきました。もし、2期のために隠してあるとすれば減点は-7点より少なくなりますね。

【キャラ設定2】コウを男子中学生にした弊害(-15点)

W主人公の一人、コウは分別のない14才の男子中学生です。人間として成長中で己が確立できていない時期(心理社会的モラトリアム)だからこそ、問題に直面すると立ち止まって思索にふけり、堂々巡りを繰り返します。非力で精神面も脆弱なコウを軸にすると、自ずとお話が停滞します。その結果として、吸血鬼・七草ナズナ先生が物語を牽引していかないとどうにもならない役割の固定化が起こります。これがコウを低年齢にした弊害の1点目です。「小林さんちのメイドラゴン」では人間は非力ながら達観した強い精神性でドラゴンをコントロールすることで両者のバランスが上手く取れていました。このような相補的な関係性を築くことができないので、このままだとエモ味を生み出すことはかなり難しいと思われます。

物語の中盤にさしかかると、主にコウとナズナ先生の2人の掛け合いが限界に近づいてきたのか、思春期の男子中学生にとっては強烈に映るナズナ先生の妖艶な肢体と牙のカットがよく映るようになったと記憶しています。物語を駆動させる力が不足しているコウがナズナ先生に投げられるのは、吸血鬼に対する知識欲と性欲くらいしかないので、この点に関しては仕方のないところではあります。演者のかたも気合いが入っていて、めちゃくちゃ綺麗なサービスシーンではありましたけれども「こういうの好きなんでしょ?」と見ている側を退屈させないためでしかなくなっているエロには少なからず勿体なさを感じます。コウを男子にした弊害の2点目はそれです。「サマータイムレンダ」のように、嵐の前の静けさ(はっきりとはしないけど何か不穏な感じ)を演出する目的としてエロを使ってドキドキさせる手法の方がお話の流れがスムーズになって良かったかもしれません。

【〆方】コウとナズナ先生の関係性はほとんど何も変わってはいない(-3点)

コウが1年以内にナズナ先生に恋をして眷属にしてもらうことがゴールだと分かっているので、そこに至るまでの過程がスローペースで無限回廊のように描かれます。ゴールした瞬間、物語が終わるか新章がスタートするわけですから、どっちみちコウは最後までおあずけを食らうことになるでしょう。中盤以降はたくさんの吸血鬼キャラがでてきて段々と面白くなってきたのに、そこで話数を使い切ったため、広げられた風呂敷が瞬く間に畳まれてこちらが2期へのおあずけを食らってしまった形です。なんてこったい。

物語を俯瞰すると、コウとナズナ先生の関係性が進みそうになってから「俺の吸血鬼化はこれからだ!」といった〆方になっていましたね。しかしながら、ラストで急に関係性を進展させるのを見せられても、コウの設定からして不自然極まりなくなるので、これはこれで上手い引きだったと思います。作品自体の問題ではなくて、これは1クールアニメの泣き所ですね。2期があるとすれば、同じ制作スタジオを予約する必要があるので最速でも2024年くらいになりそうです。辛抱強く待つことにいたしましょう。

【短評】社会的つながりに面倒くささや疲れを感じている人に刺さりそうな作品(72点)

人付き合いに面倒くささを感じたり、社会と接することに疲れを感じている人が「あぁ、それな」ってなる系の作品なので、見る人を選ぶかもしれません。あと、1期だけでは面白い/面白くないを判断することができないので、1期完結の物語を求めるのであればおすすめはできません。ただ、作画は神がかっているので、これだけはお話関係なく一見の価値があります。点数で言えば72点(中の上くらい)になりますが、個人的には2期があれば見ようと思ったほど悪くはない作品でしたよ。

【後日談】原作を読んで変わった評価と結末の予想(87点以上)

本NOTEをアップした後の話ですが、たまたま原作が1週間のみ無料公開されていることを知ったので答え合わせも兼ねて第140夜くらいまで一気に読ませていただきました。もっと先まで読みたかったですけれど、そこで公開が期限切れになってしまいました。アニメ1期は原作を改変することなく、忠実に描写されていましたね。それ以降の内容については、色々と事が起こりすぎて頭が整理できていません。なので、読んだところまでの感覚的な面白さを雑ではありますがグラフで描いてみました。

アニメ1期は本編が面白くなるまでの "タメ"

ご覧の通り、アニメ1期は面白さ曲線がぐわっと立ち上がる直前までしか原作を見せてくれていないのです。言ってみれば、ご飯と味噌汁を完食しなければメインのトンカツが出てこない後出しトンカツ定食みたいなもんですよ。そんなことされたらおかわりするしかないじゃないですか?アニメ1期以降、コウとナズナ先生とのパワーバランスが崩れることによって関係性が変化し、劇的に面白さが加速するのです。

それがないことがアニメ1期の一番のネックであり、大幅な減点対象だったので「とんでもねぇ、待ってたんだ」と思わず呟いてしまいました。つまるところ、アニメ1期は以降の展開の "タメ"(助走区間)です。仮に1期と同じクオリティでアニメ2期が制作されれば、減点分がそっくり消えてトータルの評価は87点以上に跳ね上がります。

関係性が変化してからは、コウが成長してある意味別人みたいになってしまいます。これは本作がウィニングランに入り、先はそう長くないことを予感させました。調べてみると、原作は第200夜で完結するそうです。第141夜~第200夜までは未読なので断言はできませんけれど、おそらく作中で最も情緒的に美味しい部分を読むことができて個人的に大満足でした。

最後に、結末の予想をしてみましょうか。当初の通り、コウが素直にナズナ先生の眷属になるのは、偽りの仮面を被りながら頑張っていた優等生の単なる闇堕ちエンドになってしまいます。これを肯定的に描いてしまうと社会的な健全性を欠き、読んでいる側が救われないところがあります。つまり、第141夜以降はコウにとってのハッピーエンドにつながるルートは断たれ、物語が感傷的なラストを迎えることを示唆しています。

例えばこういうのはどうでしょうか。コウが眷属になるためには「好き」っていう感情を知ることが必要でした。これは人から教わるようなものではなくて、コウ自らが獲得しなければなりません。その条件が満たされるまで、ナズナ先生は血が美味いからと理由を付けて関係を切らず、ずっと待ち続けてくれました。紆余曲折の末にコウはついに感情「好き」を自分のものにして、人間的な成長を見届けたナズナ先生はそれを認めてくれる…… そんなビルドゥングスロマン(成長の物語)があるかもしれません。

根拠としては、序盤から「友達と友達じゃない線引きはどこか?」とか「相手が怒っていそうだからとりあえず謝るのか?」とか、簡単には答えが出せない哲学的な関係性の問いかけが散見されたからです。その延長線上に「誰かを好きになるとはどういうことか?」があるのは自然な流れでしょう。そこをどう上手く表現するのかが原作者の腕の見せ所ですね。

さはさりながら、どんな形であろうとも夜更かしはいつか必ず終わりを迎えます。一般的に、夕陽・日暮れは感傷・ノスタルジーの暗喩ですけれども、「よふかしのうた」は昼夜逆転の世界観なので、朝陽・夜明けが感傷の舞台になるでしょう。コウとコウの成長を見届けたナズナ先生の惜別があるとするなら、吸血鬼だからこその設定が最後の最後になって最大限に活きてきます。あぁ、何と憎くてお洒落な演出でしょうか。勝手ながら、イイ終劇なら ♪ アネモネ/MintJam 、涙の終劇なら ♪ Crying Moon/MintJam がイメージとマッチしていそうだなぁと思いました。

そうなると、減点対象にしていた吸血鬼設定の甘さは自分の早とちりでしかなく、まんまと原作者の手のひらの上で転がされていた格好になりますね。なるほど、この妄想の結末には妙な納得と大きな反省がありました。予想を裏切るもっと良いエンディングが用意されているかも知れませんが、どうあれ評価は90点オーバーの神作になります。アニメ視聴だけで終わっていれば、うっかり72点止まりのまま離れていたことを考えると「アニメを見たタイミングで原作を追うことができて本当に良かったわ~」と感じました。

MVPキャラは作品を大車輪の活躍で引っ張っていってくれたナズナ先生でしょう。妄想の終劇後、反省会を兼ねた打ち上げで中ジョッキ片手にコウの恥ずかしいシーンを片っ端からいじり倒し、笑い転げるナズナ先生が頭の中に浮かんで、エモ味由来の多幸感で心が満たされます。正直なところ、この二人の気持ちの良い関係性に脳を焼かれてしまったため、妄想・感想がこんなにも長くなるほど評価が跳ね上がりました。そういうわけで、いい夜更かしをさせてくれた本作には深い感謝を表したいと思います。そして、ここまで駄文にお付き合い頂いた方、どうもありがとうございました。

追記:アニメ放送から1年経っていて今さら感はあるかもしれませんが、noteの #アニメ感想文 記事まとめ に載りました。「公式さんよ…… ほんまにこんなんでえぇんですかい?」ってなりましたけれどもね。

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