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野球の神様

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野球の神様がもたらす幾多の奇跡。
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#野球の神様

野球の神様㉔

「カキーーン!!」「カキーーン!!」「カキーーン!!」

バットくんは初回から連打を浴び、4失点を喫した。

そのウラ、相手チームのピッチャーがマウンドに立つ。彼はこの決勝戦まで1失点も許すことなく、ここまでの4試合を勝ち上がってきている。

「ふうっ。今目の前の一球一球に集中しよう」

そう心に誓ってピッチャーはワインドアップポジションに入る。

このピッチャー、小学生のころは結果が出るとすぐに

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野球の神様㉓

バットくん中学3年生の最後の大会。

今年もチームは順調に勝ち上がり、全国大会出場まであと1勝のところまできた。

今日勝てば、昨年のリベンジが果たせるというわけだ。

しかし、神様の様子はいつもと違う。なんとなく冷淡な視線で、試合5分前のグラウンドの様子を眺めている。

前の日に、野球の神様の分身たちとの話し合いが行われていた。

「ここまで勝ち上がってきている明日のチームのピッチャーはええピッ

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野球の神様㉒

バットくんの第2打席目が回ってきた。

「ここまで俺以外に対しては9割ストレートしか投げていない。俺以外に、カーブが初球カウントをとるために2回、フォークが勝負球で1回、それだけだ」

頭の中でここまでの配球の展開をめぐらせながら、打席へと向かう。

ネクストバッターサークルにいるとき、ピッチャーの視線をなんとなく感じていた。それに気づいた瞬間、バットくんはピッチャーがバッターに投じた真っ直ぐのボ

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野球の神様㉑

バットくんがケガから復帰して初めての練習試合の日だ。

ここまで3ヶ月間、かつてないほどに野球の思考を学んだと思うからのぉ。今日は一つ楽しみじゃな。

神様もバットくんのケガからの復帰を喜んでいた。無論ここまでバットくんを苦しめたのは神様の仕業ではあるのだけれど、ちゃんとバットくんが立派に成長して戻ってくることを神様は心からずっと待っていたのである。

バットくんは4番ライトで先発出場。さすがにこ

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野球の神様⑳

今日はチームが練習試合の日。

バットくんはバックネット裏から試合の様子をみている。

野球の神様もバットくんのそばについて試合の戦況を見守っている。

無論、野球の神様は神様としての仕事をするためにグラウンドに来ているのだが、反面でバットくんの成長を間近でみたいという思いから、わざわざこの試合を選んで足を運んだということもある。ほぼバットくんの専属神様みたいなもんでもあるから。

今日は両チーム

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野球の神様⑲

今日のグラウンドの土はいつになく光を吸収した鮮やかな茶色で映え渡り、見上げれば少し浮かぶ2、3切れの雲の先に広大な青が広がっている。

バットくんがバックネット裏で監督の横にノートとボールペンを持って座っていること以外には、いつもと変わらぬ練習風景が広がっている。

チームは守備練習中。

ノッカーが放った打球は地に3、4回触れてショートの正面に。

彼は難なくこれをさばき、綺麗にスローイングを決

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野球の神様⑱

もう一回気合入れ直すぞ!という気持ちの中での「全治3ヶ月」はさすがのバットくんにもこたえたみたいだ。

冴えない顔を浮かべ、日々焦りと不安の感情に苛まれている様子が見てとれる。

かなり落ち込んでるようじゃなぁ。ちっとばかし悪いことをしてしまっかのぉ。このまま立ち直れないバットくんではないとは思うが、ここは一つ希望の恵みを与えてやるかのぉ。

チームの練習が終わったのは夕方の17:00。この日の練

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野球の神様①

ある平日の夕方、8歳の少年は彼の住んでいる家と思われるところの前にあるガレージでバットを振っていた。

おぉ、偉いのぉ。ちゃんと一球一球真剣にバットを振っておる。

野球の神様は、バット・ボール・グローブその他野球に関係する匂いを嗅ぎつけると、匂いのするところをまるで蜜を探す蜂のようにグルグルグルグルと駆け巡る習性を持っている。

どうやら今日は8歳の少年のバットの匂いを嗅ぎつけたらしい。

いい

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野球の神様⑫

いや、それはダメじゃ。

それが掟破りなのはわかっているんじゃけど、そこをなんとか。

ならん。

野球の神様界で神様会議が繰り広げられている。

といってもこの世の中に野球の神様は一柱しか存在しない。しかし野球の神様はなるべく多くの野球人たちのことを見守ることができるように、約1000万の身体に分身することができるのだ。この度はその分身たちによる熱い議論が交わされているのである。

たった1人の

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野球の神様⑬

バットくんのもとに憑き始めてから4年の歳月が経った。彼はその後も毎日練習を欠かすことなく誰よりも何十倍も何百倍も努力を積み重ねていた。彼の才能はみるみるうちに開花していき、その才能を買われて6年生になったバットくんは4番ピッチャーという、大役を任されることとなった。

だいぶ彼の顔もたくましくなってきたのぉ。

野球の神様も彼の才能に惚れ込んだだけあってご満悦の様子である。

さて、今日も地元のリ

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野球の神様⑭

中学生になったバットくんは、たとえ周りの選手よりも圧倒的な実力を持ちながらも人一倍の努力を続けていました。

これだけ努力をする人をみると心地よいのぉ。わしはこの上ない幸せじゃ。こんなにキラキラとして向上心を持って野球を心から愛している子はをみるのはルースちゃん以来やからなぁ。

かつて野球の神様に特別に寵愛され、世界にその名を馳せた人物はベーブ・ルースただ1人。彼はピッチャーとしてもバッターとし

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野球の神様⑮

バットくん、よくオヤジさんの厳しい練習に耐えておるのぉ。

バットくん中学2年生になってからもみるみるうちに成長を続けている。身長は170センチを超え、投げるボールのスピードも130キロ台になった。ここまで積み上げてきた公式戦でのホームラン数も約40試合で15本である。チームメイトの誰もが認めるチームの要の選手となった。

それでもお父さんの厳しい練習は続く。

「そんな振りじゃダメだろ!!その身

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野球の神様⑰

全国大会をかけた試合の敗戦から、バットくんはさらにギアを上げて自分の身体をとことん痛めつけて激しい練習に取り組んだ。

素振りの回数・朝のランニングの距離・ダッシュの本数・シャドーピッチングなど、自主練習の内容もこれまでよりも2倍の量を自分自身に課してやっている。

さすがじゃのぉ。負けた悔しさをしっかりとバネにしてさらなる努力の糧にしておる。こういう時にちゃんと自分を見つめ直して反省している者は

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野球の神様⑯

中学2年生の夏。バットくんのチームは全国大会の切符をかけた地方大会の決勝戦を迎えていた。

バットくんは4番ピッチャーで出場だ。

ここまでほんとに順調に進んであるなぁ。しかし、ここらでひつとまた彼に大きな試練を与えてやらねばのぉ。

人生の中で一生懸命に頑張っているのにもかかわらず、誰よりも必死に努力をしているにも関わらずそれがなかなか報われない時というのがある。実はそれってみなさんに取り憑いて

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