野球の神様⑯

中学2年生の夏。バットくんのチームは全国大会の切符をかけた地方大会の決勝戦を迎えていた。

バットくんは4番ピッチャーで出場だ。


ここまでほんとに順調に進んであるなぁ。しかし、ここらでひつとまた彼に大きな試練を与えてやらねばのぉ。

人生の中で一生懸命に頑張っているのにもかかわらず、誰よりも必死に努力をしているにも関わらずそれがなかなか報われない時というのがある。実はそれってみなさんに取り憑いている神様のせい。神様はわざと一生懸命頑張っているのに報われない時間を作ろうとする。そしてそれを乗り越えた先に大きな光を用意していたりする。キングコングの西野さんがいうところの11時台だ。


この日野球の神様はバットくんに大きな試練を用意した。


決勝戦、試合は最終回まで両チーム一歩も譲らないスコア0-0の試合展開で進んでいた。しかし、ここでバットくんに神様からの試練が襲いかかる。

最終回相手チームの先頭バッターがセンター前ヒットで出塁すると、次のバッターは送りバント。ボールはピッチャーの目の前にちょっと強めに転がった。バットくんはこれを取ってすぐさまセカンドに送球しようとした、しかし、ボールを拾ってセカンドに投げようとボールを右手に握り変える瞬間に、ボールを握り損ね、ボールは地面にポトリと落ちた。慌てたバットくんは瞬時に切り替えてファーストに送球したが、わずかにランナーの足が先にファーストベースに到達した。

ノーアウト、一、二塁のピンチ。

さらに次のバッターに投じた変化球のボールが中指に引っかかりすぎてホームベース手前でバウンドし、これをキャッチャーが後逸。次に投じた甘いまっすぐを難なく捕らえられた左中間を真っ二つ。

バットくんのチームはサヨナラ負けを喫したのである。


泣き崩れるバットくんたち。それを顔をしかめて厳しい表情で腕組みしながら呆然と見つめる監督。

全国大会出場はチームの最大の目標であった。


この痛みから、君はどう立ち直っていくかの?今日の負けは、打てなかった4番の責任であり、最後にミスを連発したピッチャーの責任じゃ。君のせいでチームの目標が崩れたのじゃ。きっと君もそう自覚しているじゃろう。バットくん、君にかけたい言葉は一つだけじゃ。乗り越えてこい。


試合後も、バットくんの目から溢れる涙はその日中、枯れることはなかった。




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