野球の神様⑮

バットくん、よくオヤジさんの厳しい練習に耐えておるのぉ。


バットくん中学2年生になってからもみるみるうちに成長を続けている。身長は170センチを超え、投げるボールのスピードも130キロ台になった。ここまで積み上げてきた公式戦でのホームラン数も約40試合で15本である。チームメイトの誰もが認めるチームの要の選手となった。

それでもお父さんの厳しい練習は続く。

「そんな振りじゃダメだろ!!その身体でなんでそんなスイングしかできねぇんだよ!!」

「はい!」

カキーン!!!!!

カキーン!!!!!

バッティング練習のバットくんの打球は次から次へと奥深くに守っている外野手のさらに奥深くまで飛んでいく。それでもお父さんの表情は緩まない。


いい顔して練習しとる。この努力を野球をやめるまで一生続けていけば必ずや、野球界に大きな衝撃を与える偉大な選手になっていくはずじゃ。


練習後の、バットくんの自宅。

お父さんはやっとお父さんの顔になっている。

バットくんも練習の時よりも緩んだ表情にはなっているが、しかしどこかに熱い眼差しが残っている。

「俺ちょっと練習してくる」

「おぅ」

お父さんはテレビを見ながらビールを飲んで一息つきながら、バットくんの言葉に反応するが、そこからは動かない。家ではバットくんに野球のことはつべこべ言わず見守ることを決めているのだ。


ブンっ!!!!

ブンッ!!!!


才能あるやつが努力するというのは反則じゃな。こんなに野球に愛される子はきっと二度と現れんじゃろうなぁ。具体的に彼をどのように導いていくかシュミレーションしておかねぇとのぉ。なんせこれはわしの一世一代の大仕事じゃからのぉ。


野球の神様は1800年代に野球が誕生して以来最大のプロジェクトに着手し始めた。


ベーブルース以上の面白いプロジェクトを彼と共に築きあげるのじゃ。


野球の神様はバットくんの風を袈裟斬りするようなスイングをぼんやりと眺めながら、そんな思いに耽っていたのであった。


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