マガジンのカバー画像

ふろたんの創作小説

5
主に掌編など。
運営しているクリエイター

記事一覧

父と子は、

父と子は、

 俺の父は農夫だった。百姓、と言うほうがしっくりくる。手先は器用だったが、田舎者だから字は書けない。頭の回転も良くない。妻を産褥で亡くし息子の俺と二人きり。年貢は上がる一方で俺たちは抵抗手段を持てず、とにかく貧乏だった。
 六つくらいの時、親父と大喧嘩をした。理由としては心配しているのだが、親父はとにかく俺を叩く。それが嫌で家を飛び出して、適当な棒切れを持ったまま裏山をぶらぶらして夜遅くに帰った。

もっとみる
『星の底』

『星の底』

 君は地面が下で空が上だと思っているだろう。でも星の中心はどこだと思う? もちろん地面のずっと下だ。僕たちはそこに吸い付けられて立っている。ならば星における上は地の底にあるんじゃないだろうか?
 西暦を三千年越えたあたり、全ての国家において共通の処刑方が追加された。
星からの追放。
体に特殊な装備を付けて風船のように飛ばされる。最初は綺麗な景色を見ていられるってんで罪人たちは喜ぶ。でも風に流され海

もっとみる
『昏い太陽の子』

『昏い太陽の子』

 警察署の屋上、二人の男が距離を置いて佇んでいる。一人は黒い髪を後ろに撫で付けた壮年の男。タバコを咥え、屋上への入り口の壁にもたれかかっている。くたびれたベージュのコートを着た彼は刑事で、アンジェラ・エヴァンズの上司だ。もう一人は青く短い髪を軽く後ろへ流している若い男。屋上の淵に肘をついて髪を風に遊ばせている。彼はアンジェラ・エヴァンズの恋人で、悪魔と名乗る男だ。
 刑事は、コンラッド・カヴァナー

もっとみる
星渡る人

星渡る人

 僕は今、宇宙を漂っている。言い方としては優雅だが遭難と言うことだ。どうしてこうなったか説明をしよう。でもその前に僕が見ている信じがたい光景を聞いてほしい。あの光り輝く大きな人間は一体どうやって虚空を歩いているのだろう? 誰か知らないか? その訳を。
 僕は宇宙飛行士、つまり科学者だ。ロケットに乗って宇宙ステーションへ数週間移住し、仕事をして帰ってくる。そう言う職業だ。誰でもなれる訳ではないし、正

もっとみる
王の膝

王の膝

 ごきげんよう、私は気高き黒い猫。かつては鼠を取るのにも苦労して、やせ細った小さな猫でありました。その汚れた小さな畜生を拾ったのは亡霊も凍えるような古き森の奥にそびえ立つ、廃城の主。人は皆彼を魔王と呼びました。王は私をよく撫で、よく肥やし、よく遊ばしてくださいました。大変お優しい方だったのです。
 ではなぜ魔王などと呼ばれ恐れられているのか。それは私も知りません。魔法が得意だからでしょうか、それと

もっとみる