Satoshi SHIMANO

ひねくれ生物学者.

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固定された記事

つまらない生き物・嫌われる生き物は絶滅してもよいか?

 およそ86%の地球上の生物種は,未だに学名がついていない.学名の付けられた生物は約122万種,地球には総計870万種の生物が生息(Mora et al., 2011).IPBESによれば,…

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書評:オダカマサキ ダンボール アートワークス 2

うーん,久しぶりの投稿.  前回の御高著はその表紙を見てシビれて真っ先にダンボールアートに挑戦したものだった.読者一番乗りで難題のドラゴンを発売日の夜に作りあげ…

Satoshi SHIMANO
6か月前
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ツルグレン装置の正しい使用方法 〜ネットでみかける間違ったペットボトルツルグレン装置〜

 ネットでツルグレン装置の使い方と検索すると,理科教材としてペットボトルを利用した簡易なツルグレン装置の作り方や,使い方が,書かれている.しかし,これはどう見て…

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なぜ,可愛いイラストのダニの本をつくったか.

昨日の北海道新聞様のインタビューを受けて,こんな可愛い装丁になっていますが,じつは「悩まされている人」を救いたいという気持ちで作りました.と申し上げました. イ…

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『ダニが刺したら穴2つは本当か?』(2021年6月刊行) もう少し丁寧に答えてみる.

質問1 「夏が近づくと室内には人間が落とすフケをエサとして,イエダニが増えてアレルギーの原因になり,ついには,イエダニが人間も刺すのですよね.」 回答 「いいえ.…

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「ダニは神様からの贈り物」.チーズにつくダニのことを,オーベルニュ地方ではこのように呼ぶ.

 「ダニは神様からの贈り物」.フランス・オーベルニュ地方では,チーズにつくダニのことを,このように呼ぶ.人間が自然から食材をいただく.その食材が自然と,人間の知…

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壮絶な戦いから始まった日本ダニ学

 いつもやわらかいテーマをもとに,ダニという生き物について知ってもらいたい,と思う気持ちで文章を書いている.必要以上に怖がったり,目を背けたりすることなく,その…

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「閉じていた感覚」

 先日,雑誌の取材を受けていたときに,口から出てきたのが,「閉じていた感覚」と「感覚を解放する」という言葉だ.  電車の中など.多くの人が「自分が生き物であるこ…

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災害が起きたときに,野外生物学者ができること.

 犠牲になられた貴い方々のご冥福を心からお祈り致します.また,被害に遭われた方々へのお見舞いと将来のお幸せを,心より祈念させていただきます.  東日本大震災から…

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土壌動物の多様性はなぜ必要か? ダニで土壌から発生削減が難しい温暖化ガス(N2O)を排出量ゼロに出来ることとは.

 東大の妹尾先生のチームの研究.土壌から発生するため削減が難しいとされる温暖化ガス,一酸化二窒素(N2O)の排出量をダニ(ササラダニ類,ケダニ類.土壌に生息し自由…

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生物多様性って,経済的かつ文化的な問題だよね.生物学者の貢献は.

 ご存じの通り.SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された国際目標である2030年までに持続…

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生物学のイノベーションも,自分の得意とする分野で〜研究者市場で勝つには.

 大学院生の就職支援誌から,取材申し込みがあった.インタビューで尋ねられた「今の若者はどこが違いますか?」  えー.また,そんなステレオタイプな質問.と思ったが…

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もうすぐ来る生物(真核生物)の新しい体系.

Adl (2021) が提案されることになる.Adl et al (2019) の体系をもとに,学生やユーザーが階層に沿って,あるいは系統樹のノードに沿って方向付けられるように,分類群の階…

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カブトガニの分類体系を再構築した2020年に発表された論文2本

 現生種(現在生きている)のカブトガニは,4種類で,いずれも系統学的に近く,とくに現生カブトガニ類の分類が問題になることは,ほとんどありません.  しかしながら,…

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つまらない生き物・嫌われる生き物は絶滅してもよいか?

 およそ86%の地球上の生物種は,未だに学名がついていない.学名の付けられた生物は約122万種,地球には総計870万種の生物が生息(Mora et al., 2011).IPBESによれば,現在の絶滅速度からすればそのうち100万種が絶滅危惧種という(IPBES, 2019).
 しかし.どうだろう.多くの学名のついていない種は.普通の人にとって,魅力的な生物種だろうか?絶滅して良い生物なんていな

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書評:オダカマサキ ダンボール アートワークス 2

うーん,久しぶりの投稿.

 前回の御高著はその表紙を見てシビれて真っ先にダンボールアートに挑戦したものだった.読者一番乗りで難題のドラゴンを発売日の夜に作りあげたのだった.前著はそのように読者を熱くさせる,かなり勢いとハイテクニックの連続で,まさに「熱のこもった」本であった.

 今回の新刊の表紙からもわかるように,ロボットの作品かと思うと,その中にちゃんと人が操作している,細かい作りがにくい.

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ツルグレン装置の正しい使用方法 〜ネットでみかける間違ったペットボトルツルグレン装置〜

 ネットでツルグレン装置の使い方と検索すると,理科教材としてペットボトルを利用した簡易なツルグレン装置の作り方や,使い方が,書かれている.しかし,これはどう見ても,土壌動物が抽出できないだろうとおもう,ペットボトル製のツルグレン装置が多すぎる.

 以下にツルグレン装置の仕組みを説明する.

ツルグレン装置のしくみ(図1)は,アミの上にのせた土壌を,白熱灯で照らすことによって,動物が乾燥をさけて,

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なぜ,可愛いイラストのダニの本をつくったか.

昨日の北海道新聞様のインタビューを受けて,こんな可愛い装丁になっていますが,じつは「悩まされている人」を救いたいという気持ちで作りました.と申し上げました.

インタビューを受けていると,どうしてダニなんて研究するんですかと言う質問から入るので,どうしても,へそ曲がりとか,ひねくれだから.と答えるところからはじまるのですが.

昨日は答えていくうちに,最後は「あらゆる形で,ダニに悩まされている人に

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『ダニが刺したら穴2つは本当か?』(2021年6月刊行) もう少し丁寧に答えてみる.

質問1
「夏が近づくと室内には人間が落とすフケをエサとして,イエダニが増えてアレルギーの原因になり,ついには,イエダニが人間も刺すのですよね.」

回答
「いいえ.イエダニは,ネズミに寄生するダニで,昔の家はネズミが良く住み着いていました.このため,ネズミに寄生するイエダニが人間につくことがありました.しかし,現在では人家にネズミが生息していることはあまりないので,イエダニも人家から見つかることは

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「ダニは神様からの贈り物」.チーズにつくダニのことを,オーベルニュ地方ではこのように呼ぶ.

 「ダニは神様からの贈り物」.フランス・オーベルニュ地方では,チーズにつくダニのことを,このように呼ぶ.人間が自然から食材をいただく.その食材が自然と,人間の知恵,それらが神の神秘の力に育まれて,おいしく生まれ変わる時,その食材を「神様からの贈り物」とよぶ.
 日本や東アジアの食材は,微生物の発酵という神様からの贈り物の恩恵を受けているが,チーズも様々なこれらの神秘的な働きによって,おいしく生まれ

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壮絶な戦いから始まった日本ダニ学

 いつもやわらかいテーマをもとに,ダニという生き物について知ってもらいたい,と思う気持ちで文章を書いている.必要以上に怖がったり,目を背けたりすることなく,その生態を知ることで冷静に防除をすることもできる.
 また,人間に無害のダニをつかって,環境指標生物としての利用もおこなわれている.季節性の昆虫とは違い,土壌ダニならどこにでもおり,いつでも調査ができるという利点があるからだ.

 しかし,その

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「閉じていた感覚」

 先日,雑誌の取材を受けていたときに,口から出てきたのが,「閉じていた感覚」と「感覚を解放する」という言葉だ.

 電車の中など.多くの人が「自分が生き物であることを忘れ、感覚を閉じて生きている」.僕は東京で生活をしている.もしも,電車の中で.隣の人の匂いを嗅いでみたり,じろじろ,周りの人を見渡したりしたら,変な人になってしまう.もちろん満員電車に乗る事なんてできない.

 私達は日常,「五感を閉

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災害が起きたときに,野外生物学者ができること.

 犠牲になられた貴い方々のご冥福を心からお祈り致します.また,被害に遭われた方々へのお見舞いと将来のお幸せを,心より祈念させていただきます.

 東日本大震災から10年,常日頃,蓋をして生きてきた自分の気持ちが少し開いた.蓋をする? 東京で暮らすということはそういうことなのだ.2011年3月11日 仙台の大学の研究室で原稿を書いていた。大きな揺れが来て,上から本が落ちて,僕の手がマックの画面に挟ま

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土壌動物の多様性はなぜ必要か? ダニで土壌から発生削減が難しい温暖化ガス(N2O)を排出量ゼロに出来ることとは.

 東大の妹尾先生のチームの研究.土壌から発生するため削減が難しいとされる温暖化ガス,一酸化二窒素(N2O)の排出量をダニ(ササラダニ類,ケダニ類.土壌に生息し自由生活性,寄生性は全くない)の活用によって半減できた論文が公開された.2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにするという政府目標の達成に向け,小さな働き者が切り札になるかもしれないと,大きなニュースになっている.

 論文を拝読したが,つま

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生物多様性って,経済的かつ文化的な問題だよね.生物学者の貢献は.

 ご存じの通り.SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された国際目標である2030年までに持続可能なよりよい世界を目指す内容として,具体的に定めた17のゴールと,具体的な169のターゲット(方法)から構成されている.

 2001年に策定されたMDGs(Millenium Developme

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生物学のイノベーションも,自分の得意とする分野で〜研究者市場で勝つには.

 大学院生の就職支援誌から,取材申し込みがあった.インタビューで尋ねられた「今の若者はどこが違いますか?」

 えー.また,そんなステレオタイプな質問.と思ったが.言いたいことをいってみた.僕らが大学院生の時には「とにかくどうやって相手をマウンティングするか」,「どういう武勇伝を作るか」,そういう事を考えている同僚が多かった.「今の学生はマジメだし,おだやかですよね.」

 インタビュアーの女性に

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もうすぐ来る生物(真核生物)の新しい体系.

Adl (2021) が提案されることになる.Adl et al (2019) の体系をもとに,学生やユーザーが階層に沿って,あるいは系統樹のノードに沿って方向付けられるように,分類群の階級に,科,目,綱,門,界などのリンネ式体系の分類階級名が付けられるはずだ.

言ってみれば,これまでAdl et al (2019)では,分類群の階級を放棄し,これらにたんなるランクというものを与えることによって

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カブトガニの分類体系を再構築した2020年に発表された論文2本

 現生種(現在生きている)のカブトガニは,4種類で,いずれも系統学的に近く,とくに現生カブトガニ類の分類が問題になることは,ほとんどありません.
 しかしながら,カブトガニという分類群は,化石種では,非常に多様で,複雑な様々な種を包括しており,長い間,カブトガニ類の分類体系は混乱していたようです.(少し前の節口綱の概念も今とは全く違うらしいのですが,また,別の話で).
さて,カブトガニ類の混乱した

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