もうすぐ来る生物(真核生物)の新しい体系.

Adl (2021) が提案されることになる.Adl et al (2019) の体系をもとに,学生やユーザーが階層に沿って,あるいは系統樹のノードに沿って方向付けられるように,分類群の階級に,科,目,綱,門,界などのリンネ式体系の分類階級名が付けられるはずだ.

言ってみれば,これまでAdl et al (2019)では,分類群の階級を放棄し,これらにたんなるランクというものを与えることによって,この説明から逃げてきた.だから世の中の生物学者たちは,スーパーグループをもちいた真核生物の体系を許容してきた.しかし,それがリンネ式分類と結びつけられることになると,急に新体系が,現実味を帯びるだろう.その前に以下を振り返ってみたい.

■ Adl et al (2019)までの概念
Adl (2021)で提案される体系は,Adl et al (2019)のTable 1をさらにすすめたもので,これまでAdl et al (2005, 2012, 2019)では,ランク付けのみであった分類群の階級に,科,目,綱,門,界などのリンネ式体系の分類階級名が付けられる.
Adl et al. (2019) は,「We have summarized the higher level classification of eukaryotes in Table 1, with an estimate of the known number of genera, and providing informal phylum and class designations to help orient the student and users along the hierarchy, or nodes on a phylogenetic tree. (ここでは,真核生物の上位分類を表1にまとめ,既知の属の数を推定し,学生やユーザーが階層に沿って,あるいは系統樹のノードに沿って方向付けられるように,非公式の門とクラスの呼称を示した)」とのべ,Table 1にはG=genus; F=family; O=order; C=class; P=phylum; K= kingdomのそれぞれが,符号として付けられたが,Adl (2021)は,これをできるかぎり全ての分類群について試みることになる.
Adl et al (2005, 2012, 2019)では,「・(中点)」= bullet (ビュレット,あるいはbullet point)の数によって,ランクが示されてきた.Adl et al, (2019)では,アメボゾア,オピストコンタ,SAR, アーケプラスチダをsupergroupとして残しているものの,かなり安定robustな状態になってきたため,Adl (2021)では,原核生物を除く真核生物の体系を,リンネ式体系にあてはめる試みがおこなわれた.
さかのぼってみると,Adl et al (2005)によって提案された新しいシステムには以下の2点がある.1) super-groupという名称の分類階級と,2) 分類群のビュレットによる階級付けである.
前提として,国際動物命名規約では科までの規定よりも上の分類階級について,国際藻類・菌類・植物命名規約では,門は規定があるよりも上の分類階級については規定がないので,いかなる分類のルールもないことである.
1) super-groupスーパーグループ.
“super-group”は,普通名詞であって分類階級の名称ではない(命名規約やリンネ式体系の階層構造に準じるようなformal nameではない).以前には“super-taxon”(Baldauf et al., 2000)や,“major group”(Baldauf, 2003; Simpson and Roger, 2004)という言葉も用いられた.島野(2010)によって「界とは切り離してスーパーグループという分類カテゴリーを提案した」と説明されたように,スーパーグループはリンネ式体系の分類階級「界 kingdom」と置き換えて用いられた訳ではない.Adl et al (2005, 2012)が公表された当時は,分子系統解析は まだまだ初期的primitiveな段階であったため,リンネ式体系の分類階級で取りまとめることをさけて,この仮説としてのスーパーグループを単位として用いたのである.また,スーパーグループはリンネ式体系の分類階級である科,目,綱,門,界などのように,階級を提案した固有名詞でもないため,頭文字は大文字にはなっていない.単に分類群をグルーピングするための呼称である.
現に,Adl et al (2005, 2012, 2019)では,「The highest ranking groups recognized have been summarized recently by Simpson and Roger (2002, 2004). Molecular phylogenies group eukaryotes into six clusters:...(認識されている最も高いランクのグループについては、最近Simpson and Roger(2002, 2004)がまとめている。分子系統学的には、真核生物は次の6つのグループに分類される。)」としてスーパーグループを説明している.
また,Adl et al (2019)では,「The super-groups utilized since 2005 (Adl et al. 2005; Simpson and Roger 2004) are revised as follows(2005年から利用されているスーパーグループを以以下のように改訂します)」とあり,つまり,Adl et al (2005)とSimpson and Roger(2004)によって使われ出したとしている.繰り返しになるがSimpson and Roger(2004)が使った言葉は普通名詞であり“major group”である.
Bruki et al. (2007) は,「A current hypothesis for the tree of eukaryotes proposes that all diversity can be classified into five or six putative very large assemblages, the so-called ‘supergroups’.(真核生物の系統樹に関する現在の仮説では、すべての多様性は5つか6つの非常に大きな集合体、いわゆる「スーパーグループ」に分類できるとしている。)」とのべており,ここでも仮説を説明するための呼称にすぎないことを説明している(分類階級名ではないので,ここでも頭文字は小文字がもちいられている).
ただし,スーパーグループ等の名称については,命名規約に準じた取り扱いがAdl et al. (2019)で行われている.これまで,新たなスーパーグループがつくられた例として,Bruki et al. (2007)は,SARを,Brown et al (2018) はCRuMs を,そして,Strassert et al (2021)は,HaptistaとCryptistaを提案している.スーパーグループの下位の規約によって規定される分類群名は,国際動物命名規約と国際藻類・菌類・植物命名規約,どちらかの命名規約に従っている.Adl et al., 2019には「It has been the responsibility of this committee to discuss and arbitrate published phylogenetic hypotheses, proposals for new names and name changes. Underlying these discussions are principles of nomenclatural priority in the spirit of the codes of nomenclature.(この委員会[国際原生生物学会]は,発表された系統的仮説,新名称の提案,名称変更を議論し,仲裁することを責務としてきた.これらの議論の根底にあるのは、命名規約の精神に則った命名法の優先順位の原則である.)」としている.原生生物における両方の命名規約の相互使用からおこる問題については,Adl et al. (2007)およびLahr et al. (2012)に整理されている.この観点からスーパーグループおよびその上位,あるいは下位の規約で規定されない名称についても,分類群名として命名規約に準じた取り扱いがAdl et al. (2019)では改めて行われている.
2) 分類群のビュレットによる階級付け
 リンネ式体系の階層構造には,矛盾があってはならない.例えば,界の内部には,門があり,その下に,綱がある,ふたたびその中に界などがあってはならない.しかし,Adl et al (2005, 2012, 2019)が提案した,分類群のビュレットによる階級付けでは,それぞれの分類群に矛盾は生じない.
 Adl et al. (2019) についての説明に付け加えて,誤解されやすい言葉として,domainが,Adl et al. (2019)でアモルフェアとディアフォレティケスに対して使われていたが,これは単に,領域などという普通名詞であって,普通名詞スーパーグループと同じであり,Woese et al. (1990)が提案した分類階級としてのドメインDomainの意味ではない.つまり,ドメインとして,アーケア,真正細菌そして,真核生物の3つの体系であることについて,Adl et al. (2019)は,新たな提案をしているわけではなかった.

この後,2021モデルの発表となる訳だが.さて,どうなることだろう.

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