生物多様性って,経済的かつ文化的な問題だよね.生物学者の貢献は.

 ご存じの通り.SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された国際目標である2030年までに持続可能なよりよい世界を目指す内容として,具体的に定めた17のゴールと,具体的な169のターゲット(方法)から構成されている.

 2001年に策定されたMDGs(Millenium Development Goals:ミレニアム開発目標)の後継なわけだが,MDGsやESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)に関わってきたものとしては,SDGsもずいぶん社会に浸透したものだとおもう.

 電車の中で上着の胸元に,虹色の丸いバッヂ(SDGsバッヂと僕はよんでいる)をつけたオジサン達をよくみかける.最近,SDGsがつくづく,世の中でよく知られるようになった.

 さて,生物多様性は,「資源でもありながら私達と同じ生命体である生き物や自然との関係改善」と言う問題だけに関わっているわけではない.むしろ,社会的問題解決と深く結びついている.

 生物資源をめぐる国際間の利害関係,自然保護をめぐる政府と地域住民との軋轢など,様々な社会的,経済的かつ文化的な問題がむしろ中心なのだ.

 17のゴールには「海の豊かさを守ろう(目標14)」,「陸の豊かさを守ろう(目標15)」など生物多様性に具体的に関わる目標も含まれている.しかし,持続可能な生物資源の利用や保全には,社会的かつ文化的な問題を含んでおり,SDG達成の最終目標である「グローバル・パートナーシップ(目標17)」の達成のひとつの姿でもある. 

 その証拠に,IPBESの報告書によれば,現在の生物多様性と生態系の悪化傾向は、17のゴールのうち,貧困や飢餓、健康、水、都市、気候、海洋と陸地に関連する8つのゴール(目標 1、2、3、6、11、13、14、15)の達成に向けた前進を妨げ,また,それぞれの目標に所属する 169のターゲットの80%(44 のうち 35)の達成に向けた前進を妨げているという.

 生物多様性の問題を解決しなければ,他の持続可能なよりよい世界をつくるゴールの達成にも大きく妨げになるのだ.

 生物多様性の問題は,生物学の問題のようにとらえられているが,むしろ,経済学や社会学の問題なのだ.本来は,この経済的背景,文化的背景,そして,社会的背景を解決しなければならないことが,本当に皆さんに伝わっているのか少し不安だ.

 つまり,私達,生物学者よりも,本当は電車に乗っているオジサンのほうが,生物多様性への貢献をできるはずなのに,とSDGsバッヂをみるたびにいつも考えさせられている.

文献
・IPBES (2020)「IPBES生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書 政策決定者向け要約」
・高橋 進 (2021)「生物多様性を問いなおす−世界・自然・未来との共生とSDGs」ちくま新書

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