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takuma@note作家
2020年4月23日 07:16
そこには、見知らぬ顔の二人と加賀がいるだけだった。馬場の想定では、坂本もこの場にいるはずだったが、坂本の姿は見当たらない。そして、この二人は誰なんだ。そんな思いがけぬ事態に、馬場は少し混乱していた。 「お、馬場君も来たね。それじゃ、始めよっか」 加賀は、皆がそろったことを確認して話し始めた。 「ちょっと待ってください。すいませんが、まずこちらのお二人はどなたですか?」 馬場は話を
2020年4月24日 08:00
それから加賀は、神原たちに革命についての計画を全て打ち明けた。その話を聞きながら、手崎はあることに気が付いた。 (そっか。加賀先輩が私に話しかけてくれたのは、この計画のためだったんだ) 内心とても嬉しかった。地味で目立たない自分に声をかけてくれ、このとんでもない計画の仲間にも誘ってくれた。正直、革命については何も想像は出来ないが、これから加賀と一緒に何かをやれるということだけで、手崎は断
2020年4月26日 07:23
「今日は集まってくれてありがとう。みんな席に座っていいよ。ならさっそくだけど、今日集まってくれた新しいメンバーを紹介していくね」 加賀がそう言うと、坂本は口をはさんだ。 「せっかくなら、自分自身で自己紹介しようよ。セトが紹介するより、そっちの方がよりお互いのことを知れるでしょ」 坂本の提案に、教室内の緊張感は更に高まった。 「そ、そうだよね。なら、神原君からお願いしていい?」
2020年5月15日 07:55
「2年の手崎って子、女バレのキャプテンに目をつけられたらしいよ」 「加賀先輩に馴れ馴れしくして、江藤さんが怒ってるんだって」 翌日から、手崎に関しての噂も広がっていった。噂というものは、人から人へ伝わる過程で、姿を変えていく。その様子は、人の欲望を餌にしながら大きく育っていくようだった。 手崎が感じていた「視線」とは、この噂が原因だった。今まで手崎のことを知る学生は少なかったが、ほと
2020年5月16日 07:32
橋田が江藤に近づくのは、女子バレー部の次期キャプテンになるためだった。キャプテンに選ばれるためには、現キャプテンに指名をしてもらうことが、最も確実な方法である。下手に近づけば、キャプテンに目をつけられるリスクはあるが、少しでもキャプテンに近づくため、橋田はこの方法を選んだ。 そして、橋田がキャプテンになりたい理由は、他の学生とは異なるものだった。女子バレー部のキャプテンになりたい者の多くは、
2020年5月19日 07:19
橋田からストレートに「みんなに陰口を叩かれている」と言われ、再び手崎は泣きそうになった。何とくなくそうだろうなとは思っていたが、その事実が明るみに出ると、やはり傷つくものである。手崎は心が押しつぶされそうになっていた。 「泣いちゃダメだよ」 橋田が言った。 「泣きたい気持ちは十分わかるよ。でも、泣いたって誰でも助けてくれないんだよ。だから、今出来ることは泣かないこと。ぐっとこらえるん
2020年5月21日 08:38
この日、江藤はいつも通りバレー部の朝練に出ていた。朝の江藤は機嫌が悪い。この日の朝練では、後輩たちの連携ミスが目立ったため、特に機嫌が悪かった。練習も途中で中断し、罰として過酷な筋力トレーニングを科した。 「やる気がないなら辞めろよ」 江藤の怒号が体育館に響いていた。 そして、部活が終わり部室で着替えを行うが、いつもなら雑談などでわいわいしている部室も、この日に限っては重たい沈黙に包
2020年5月22日 08:29
「お、お先に失礼します!」 女子バレー部の部員たちは、江藤に挨拶をしながら早々に部室を後にした。橋田も、そうせざるを得なかった。部室から教室へ戻る途中、2年生の部員たちは手崎の話題でもちきりだった。 「江藤さん、めっちゃキレてたよね。手崎って子、まじでヤバいんじゃない」 「てか、よくあそこまで粘れたよね。私なら、帰れって言われたらすぐ帰るよ」 「それよりも、このせいで明日から江藤
2020年5月23日 08:20
江藤は、女子バレー部のキャプテンになってから、全て自分の思い通りに物事が進んでいた。誰も逆らう者はおらず、教師ですら干渉してこない。江藤がかつて憧れた女子バレー部のキャプテンを超える存在になれたことに、江藤は満足をしていた。 しかし、今自分自身の目の前にいる、小さくてひ弱な女子生徒は、自分の指示に「嫌です」とはっきりと答えた。江藤のプライドは、それを許すことが出来なかった。 「お前さ、今
2020年5月24日 08:56
手崎はしばらくそのままバレー部の部室にへたり込んだ。不安や恐怖で、体を動かすことが出来なかった。そのまま、気づけば一限目を終えるチャイムが校内に鳴り響いた。それをきっかけに、手崎はようやく重い腰を上げることができた。手崎は、バレー部の部室を後にし、ふらふらとおぼつかない足取りで自分の教室へと戻っていった。 階段に差し掛かったところで、橋田が手崎を待っていた。手崎が歩いてきたことに気づき、橋田
2020年5月25日 06:44
昨日、あんなに泣きじゃくっていて、か弱いと思っていた女の子が、こんなにも強いものを持っていたことに橋田は素直に驚いていた。だからこそ、白の会に選ばれているんだと、橋田は納得をした。 「本当に大丈夫?」 橋田は、最後に手崎へ確認した。 「はい。もちろん、途中で心が折れそうになると思います。でも、自分は一人じゃないって思えるので、乗り越えられそうです」 手崎は笑顔で答えた。 「…
2020年5月26日 06:58
江藤は授業が終わるのを心待ちにしていた。自分に対して、生意気にも歯向かってきた手崎を徹底的に追い込もうと息を巻いていたからだった。手崎にあえて部室の鍵を託したのも、逃げられなくするためだった。もし、部室の鍵を返しに来なければ、それはそれでバレー部に迷惑をかけたという理由も加わり、より追い込むことが出来る。もし素直に返しにくれば、その時点で、女子バレー部全員を巻き込んで、手崎を追い込む算段だった。
2020年5月27日 06:37
「せっかくこっちが穏やかに話を進めようとしてるのに、何だよその態度は」 江藤は今朝と同様に、手崎へ詰め寄った。 「わ、私は白の会を辞めるつもりもありませんし、バレー部にも入部しません! だ、だから、部室も掃除しませんし、言いなりにもなりません! それでは失礼します!」 手崎は、半ばやけくそのように大声で江藤へと言い返した。そして、そのままの勢いでバレー部の部室から飛び出した。 「
2020年5月28日 07:12
「おい! お前らもっとしっかり動けよ! 今朝とまったく変わってねぇじゃん!」 体育館には、江藤の怒号が響き渡っていた。江藤は手崎に逃げられ、いつも以上に機嫌が悪くなっていた。そうなると、バレー部の後輩たちへの当たりが強くなる。江藤にとって、部活はストレスのはけ口となっていた。 「お前ら全然ダメだよ。今からグラウンド10週走ってこい!」 江藤は一人のミスをきっかけに練習を中断させ、1、