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30日間の革命 #毎日小説58日目

 「せっかくこっちが穏やかに話を進めようとしてるのに、何だよその態度は」

 江藤は今朝と同様に、手崎へ詰め寄った。

 「わ、私は白の会を辞めるつもりもありませんし、バレー部にも入部しません! だ、だから、部室も掃除しませんし、言いなりにもなりません! それでは失礼します!」

 手崎は、半ばやけくそのように大声で江藤へと言い返した。そして、そのままの勢いでバレー部の部室から飛び出した。

 「おい! 待てよ!」

 後ろから江藤の呼び止める声が聞こえたが、手崎は振り返ることなく、走ってその場から立ち去った。そして、そのまま図書室へと向かった。

 図書室へ着くと、いつもの席へとへたり込んだ。もう、全身に力が全く入らなかった。そのまま机に伏せて、しばらく動けなかった。

 (私、これからどうなるのかな。また江藤先輩を怒らせたから、明日からもっとひどくなるんだろうな。それに他の先輩たちにも目をつけられたかも……)

 考えれば考えるほど、不安が押し寄せてきて、今にも泣きそうになっていた。

 「大丈夫ですか?」

 手崎が机に伏せていると、誰かから呼びかけられた。手崎は、ふと加賀の顔が思い浮かび、机から顔を上げた。

 すると、そこには加賀ではなく、1年の馬場がいた。

 「……ば、馬場君?」

 手崎は驚いた表情で馬場に話しかけた。

 「先輩大丈夫ですか? たまたま図書室に来てみたら、先輩が机に伏せてたので、体調でも悪いのかなと心配になりましたよ」

 馬場とは白の会で顔を合わせていたが、ほとんどしゃべったことはなかった。むしろ、以前「この先輩よりも自分の方が役に立つ」と堂々と言われて、苦手にさえ感じていた。

 「ご、ごめんなさい。ちょっと眠くなって、ぼーっとしてました」

 「そうですか。なら良かったです。何でも今日は保健室に行かれていたと聞いたので、まだ体調が悪いのかと心配しましたよ。……今結構忙しいんですか? 目の下にクマができてますよ」

 馬場は手崎にぐっと顔を近づけ、そう質問した。馬場の急な接近に、手崎は思わず大きく後ろへ退いた。

 「だだだ大丈夫です。こ、これはその、あれです。ちょっとしたあれなんです」

 手崎は顔を赤くさせ、動揺をかくせずにいた。馬場は、その様子を見て少し笑いながら、

 「なんですかそれ。でも、心配ですよ。ちゃんと寝れてます?」

 ともう一度その距離を詰めた。手崎は、今まで男性とこんなに近距離で話したことはなく、混乱した。

 「……は、はい」

 動揺と混乱で、一言返事を返すので精一杯だった。

 「まあ無理はしないでくださいね。白の会も、夏の集会に向けて大きく動き出しますからこれからもっと忙しくなりますよ。あ、そうだ……」

 馬場は、何かを思いついたように手を叩いた。

 「もし、先輩の体調が悪いのなら、僕が代わりに人数集めやりますよ」

 突然の提案に、手崎は驚いた。

「え? い、いや大丈夫ですよ。な、何とか自分で頑張ります」

 さすがにそんなことをお願いするわけにもいかないので、手崎は断ったのだが、

 「いやいや、無理はいけませんよ。正直かなりお疲れの様子じゃないですか。それに、僕も2年生にも知り合いの先輩は何人もいるので、問題なく集められますよ。坂本先輩や加賀先輩には僕から言っておきますので、遠慮はしないでください!」

 と、馬場は笑顔で更に詰め寄った。馬場のことは苦手だったが、正直この提案は手崎にとってはありがいものだった。江藤との問題がより深刻になっている今、手崎が誰かを勧誘したところで逆効果になるのは自分自身でも理解していた。それに、今の精神状態では、とても集会のことまでは頭が回らないと思っていたからだった。

 「……ほ、本当にいいんですか?」

 手崎は恐る恐る馬場の顔を見て答えた。

 「もちろんです! 安心してお任せください。先輩、今はゆっくりと自分のことだけを考えて過ごしてくださいね。では、さっそく坂本先輩たちに報告しに行ってきます」

 そう言うと、馬場は図書室を去ろうとした。図書室を出る間際、再び手崎の方へ振り返り、

 「これから定期的に図書室へ来るので、何かあったらいつでも相談してくださいね!」

 と言い残し、図書室から去っていった。

 手崎は、ぱたっとイスへ座った。今日は色々なことがありすぎて、頭が全く追い付いていなかった。でも、今まで苦手だと思っていた馬場のことを、少しだけ頼もしく感じていた。


▼30日間の革命 1日目~57日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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