マガジンのカバー画像

30日間の革命

100
毎日小説をアップしていき、100日間で1つの作品を作り上げます。
運営しているクリエイター

記事一覧

30日間の革命 #毎日小説1日目

30日間の革命 #毎日小説1日目

 そこには、いつもと同じ安心感があった。同じ空間、同じ物、同じ人、同じ時間。変わらないことこそ、私の存在を肯定してくれている。それが、私にとっての真実であった。

 今年の夏はとくに暑かった。どこかの街で最高気温が更新されたらしい。それでさえ、私にとっては日常だった。夏休みが終わり、新学期が始まる。私は高校の教師として8年間、この流れを繰り返してきた。今年も何も変わらない。そう思っていた。

 変

もっとみる
30日間の革命  #毎日小説2日目

30日間の革命 #毎日小説2日目

 文化祭に向けた話し合いは順調そのものだった。坂本が指揮をとり、役割分担や、発表する演目も無事に決まった。我が3年1組は、W.シェイクスピア作『マクベス』を行うこととなった。

 『マクベス』とはどんな内容なのか簡単に説明すると、「勇猛果敢だが小心な一面もある将軍マクベスが妻と謀って主君を暗殺し王位に就くが、内面・外面の重圧に耐えきれず錯乱して暴政を行い、貴族や王子らの復讐に倒れる」というものであ

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説3日目

30日間の革命 #毎日小説3日目

 加賀の人生において、坂本の存在は特別なものだった。

 加賀について語るのは、とても簡単なことだ。彼の人生を一言で表すなら、「順調」という言葉が最も当てはまる。誰からも愛し慕われ、いつでも中心的な存在であり、また彼自身も優しい人間であった。

 高校3年生に進級した当時の加賀は、クラス名簿に「坂本小春」という名前を見つけ、少しだけ不安を感じていた。坂本は1年生の頃から優秀で模範的な学生だと教職員

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説4日目

30日間の革命 #毎日小説4日目

 坂本と加賀は、昼休みに屋上へと向かった。

 通常、屋上は一部のスペースしか開放されていないが、坂本は特別な場所を知っていた。通常の学生では入ることのできない、もしくは存在すら知らないであろう屋上のベンチである。

 屋上のベンチへは、開放スペースからさらに一つ上の階へ上がらなければならない。もちろんその階段の前には施錠された扉があり常に閉まっている。一般学生には入ることも出来なければ、中に階段

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説5日目

30日間の革命 #毎日小説5日目

 ”革命”

 この言葉を聞いたのは、確か世界史の授業が最後だったかもしれない。加賀は色々な思考を巡らせた。

 (これは冗談なのか?また俺をからかってるのか?)

 しかし、坂本の表情を見る限り、ふざけて言っているようには見えないし、何よりその言葉に強い想いが込められているようにも感じた。

 「革命って、フランス革命とか産業革命とかの革命?」

 「うん。その革命だよ」

 「まじ?」

 「

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説6日目

30日間の革命 #毎日小説6日目

 まず坂本と加賀が行ったのは、仲間を増やすことである。いくら二人に力があれど、革命ともなればもっと大勢の力が必要となる。坂本の構想では、自分たちを含めてあと4人を主要のメンバーとして集めるというものだった。

 まず目をつけたのは、部活動である。進学校ではあるものの、部活動も盛んに行われているので、部長やリーダーといった存在の影響力は大きいと判断したのだ。そして、その中でも最も人気の高いのが「野球

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説7日目

30日間の革命 #毎日小説7日目

 「とは言っても、俺も森下と話したのは1年生の頃だけだからな。いきなり話しかけて『一緒に革命を起こそう』なんて言ったらドン引きされるよ」

 「そりゃそうでしょ。だから最初は様子を見るのよ。森下君のことをしっかりと観察して、話しかける適切なタイミングを見計らうのよ」

 そして翌日から二人は森下の観察を始めた。

 観察を始めてすぐ分かったのは、やはり彼の統率力が優れているということだった。部活の

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説8日目

30日間の革命 #毎日小説8日目

 大友孝一は武蔵中央高校の野球部監督である。自身も武蔵中央高校の野球部OBであり、監督就任10年となる。とにかく厳しいことで有名であり、野球部のみならず、ほとんどの生徒から恐れられている。しかし、その厳しさ故、生徒からは敬遠されており、中には悪口を言う人も少なくない。しかし森下は違った。どんなに厳しい指導やトレーニングでもついていき、決して反抗することはない。加賀の言う通り、一種の”洗脳”にも見え

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説9日目

30日間の革命 #毎日小説9日目

 いつも通り、坂本は屋上のベンチにいた。そして、加賀は先ほどの話を坂本に話した。すると坂本はどこか納得したような穏やかな笑顔を見せた。

 「みんなが知らない一面か。森下君は大友先生の怖いだけじゃない一面を知っていたんだね。だからあそこまで頑張れるんだね」

 「どんな一面なんだろうな。めっちゃ気になるよ。でもさ、森下もそんなことで、あそこまで従順になれるんだから凄いよな」

 「ねえセト、人を動

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説10日目

30日間の革命 #毎日小説10日目

 森下は野球部の練習が終わり、グラウンド整備など全ての片付けが終わったあとも一人で自主トレをしていた。その自主トレが終わり、身支度をしている頃合いを見計らい、坂本と加賀は声をかけた。

 「森下君、お疲れ様!」

 坂本が声をかけると、森下は驚いた顔を見せた。二人は3年間違うクラスであったため、接点はなく、これが初めての会話となった。

 「え? お、お疲れ様」

 戸惑いながらも返事をした森下は

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説11日目

30日間の革命 #毎日小説11日目

 いきなり”革命”のメンバーになってほしいと言われた森下は困惑していた。何せ、言ってきたのがあの坂本小春だったからである。森下は坂本と同じクラスになったことはなく、会話もしたことがない。しかし、この学校で坂本のことを知らない生徒はいなかった。常に成績はトップであり、2年生から生徒会長を務め、体力テストでも上位に入る。そんな完璧にも近い坂本の名前は、どのクラスにいても耳に入ってくる。そんな坂本から”

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説12日目

30日間の革命 #毎日小説12日目

 「うーん。ごめん、正直まだこの話を聞いただけだと判断できないよ。坂本さんとしっかり話したのも今日が初めてだし、そんな状態で答えは出せない。そっちが本気なら、なおさら中途半端には答えられない」

 森下は頭の中を整理しながらも、正直に自分の言葉で伝えた。

 「うん。ありがとう正直に言ってくれて。もしよかったら、明日から昼休み、第二視聴覚室に来てくれない?」

 「第二視聴覚室に? なんで?」

もっとみる
30日間の革命 #毎日小説13日目

30日間の革命 #毎日小説13日目

 加賀は翌日から最後の主要メンバー探しに動いた。坂本曰く、この革命を成功させるためには、主要メンバーが4人必要らしい。そして、その4人はそれぞれ違う役割を担うため、似た者を集めれば良いという訳でもないと坂本から言われていた。現在の役割を考えると、坂本は総指揮、森下は実行部隊。しかし、自分の役割は何なのかを加賀はまだ理解していなかった。

 ただ、現メンバーは少なくとも全員目立つ人物ばかりだというこ

もっとみる

30日間の革命 #毎日小説14日目

(いたいた。しかし、毎日あんな感じで一人で将棋やってんのかな?)

 加賀は、図書室の角で一人将棋をさす彼女を見てそう思った。

 将棋同好会は、5年前に将棋が好きな生徒で作られた同好会である。噂によると、一昨年には6人ほどのメンバーがいたそうだが、次第に人数が減っていき、今は手崎のみとなっている。

 加賀はとりあえず近くの席に座って様子を見ることにした。しかし、20分以上経っても、彼女は変わ

もっとみる