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30日間の革命 #毎日小説2日目

 文化祭に向けた話し合いは順調そのものだった。坂本が指揮をとり、役割分担や、発表する演目も無事に決まった。我が3年1組は、W.シェイクスピア作『マクベス』を行うこととなった。

 『マクベス』とはどんな内容なのか簡単に説明すると、「勇猛果敢だが小心な一面もある将軍マクベスが妻と謀って主君を暗殺し王位に就くが、内面・外面の重圧に耐えきれず錯乱して暴政を行い、貴族や王子らの復讐に倒れる」というものである。

 マクベスを希望したのも坂本だった。そして文化祭では、各クラスでスローガンを作ることが慣例となっているが、当クラスでは「革命」の2文字が掲げられた。

 「最後の文化祭だから、革命を起こすくらいの気持ちで頑張ろう」

 坂本の言葉には、ある種の緊迫感を感じることができた。

 高校3年生のこの時期は、進路を決める時期でもある。進学校である当校は、生徒の8割が大学へ進学する。なので、全てを文化祭の準備にあてることは難しく、片手間で準備をするクラスも多い。また、文化祭という名の「演劇発表会」なので、本気で取り組もうとする学生が少ないのもまた事実である。しかし、当クラスからはそのような雰囲気を感じることはなく、表すなら「肉薄した雰囲気」といったところだった。

 坂本は同じクラスの「加賀セト」と仲が良かった。加賀は入学時から人気者で、男子の中でもリーダー的存在であり、周りの学生からも慕われていた。そんな加賀が3年生になり、坂本と同じクラスになった途端、坂本を立てるように一歩下がった。クラスでの話し合いやイベントの時も、中心は坂本となり、加賀はそれを支える役割となっていた。もちろん坂本が支配をしているとったことではない。彼女の模範的な行動は教職員のみならず、学生からも慕われ、自然的にそうなっているのである。

 「セトはさ、どうやってこの学校を卒業したい?」

 坂本と加賀は、昼休みは決まって屋上のベンチで話をしていた。

 「卒業って実感を掴んでから、卒業したいな」

 「卒業の実感か。それってどんな感じなんだろうね」

 「わからないけど、小春といると掴めそうな気がするな」

 「ならもっと頑張らなくちゃね」

 坂本は微笑んで加賀に答えた。

 「こんなにさ、考える日々が来るなんて思ってもなかったよ」

 「今まで何も考えてなかったの?」

 「何も考えてなかったよ。ただ、楽しく毎日を過ごすために、友達とはしゃいだり、ごはん食べにいったり、デートしたり。考えてたとしたら、伊達坂48のメンバーとどうやったら付き合えるのかなってことくらいだったよ」

 「答えはでたの?」

 「うん、到底無理だってことがわかったよ」

 「諦めちゃうんだ」

 「泣く泣くね。 でもさ、今は他にやりたいことがあるから、そっちで頭がいっぱいなんだよね」

 「成功するといいね。文化祭」

 「うん。絶対成功させよう」

二人は、一つ先の世界を見つめるように、空を見上げていたーー

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