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30日間の革命 #毎日小説9日目

 いつも通り、坂本は屋上のベンチにいた。そして、加賀は先ほどの話を坂本に話した。すると坂本はどこか納得したような穏やかな笑顔を見せた。

 「みんなが知らない一面か。森下君は大友先生の怖いだけじゃない一面を知っていたんだね。だからあそこまで頑張れるんだね」

 「どんな一面なんだろうな。めっちゃ気になるよ。でもさ、森下もそんなことで、あそこまで従順になれるんだから凄いよな」

 「ねえセト、人を動かすのに最も大事なことはなんだと思う?」

 坂本は急に真面目な顔をして質問をした。

 「え? なんだよ急に。まあ人を動かすって、やっぱ自分自身を影響力を高めるみたいなことなんじゃないの? 有名になったりお金持ちになったりさ」

 「自分自身の影響力ね。それも確かに重要だよね。でもね、私はもっと大事なことがあるんじゃないかなって思ってるんだ」

 「もっと大事なこと?」

 「うん。あくまで私の考えなんだけどねーー」

 坂本はゆっくりと話し始めた。

 「人と人って、どこまで頑張ってもやっぱり他人だと思うんだ。親でも兄弟でも親友でも恋人でも、100%一緒になれるってことは難しいと思うの。だからさ、いくら自分自身の影響力を高めたところで、相手が動いてくれる保証はないし、セトの言ってくれた”お金持ち”になったとしても、そのお金がなくなったら人は離れていってしまうかもしれない。つまり、人が人を動かすってこと自体、実は困難なことなんだよ。だから誰かに動いてもらいたいと思ったとき、まず考えるべきことは、”相手自身に動こうと思ってもらうこと”なんだと思う。最終的に動くか動かないかって決めるのは、やっぱり自分自身だから、無理やり動かそうとしたりしてもダメなんだよ。逆に、相手が動きたいって思ってくれれば、自分がどんなことをしても、ついてきてくれると思うの」

 静かだが、しっかりとした芯のある話し方に、加賀は初めて坂本と屋上で話をしたときのことを思い出していた。

 「森下君だってそうだと思うんだ。大友先生のどんな一面を見たかはわからないけど、多分森下君自身が大友先生についていくって決めたからこそ、あそこまで頑張れてるんだと思う。恐怖だけだったら、他の生徒と同じように、裏で悪口言ったり、セトのように怖がりすぎちゃったりしてると思うよ」

 「おい! 俺はそこまで怖がってないよ」

 「冗談だよ。でもセトもさ、私が怖いから”革命”の話にのっかってくれた訳じゃないでしょ」

 「まあそれはそうだな。俺自身が、小春の話を聞いて”やりたい”って思ったから、今もこうしているわけだし」

 「もちろん、お金持ちになったり有名になることも、相手が動きたいと思う理由の一つかもしれないけど、それでも限界はあると思うんだ。だから、相手に本気になってもらうことを一番に考えて、私たちは行動しなければならないし、誘うときも上っ面のものだけでは決してついてきてくれないっって思う。森下君も、そういうところはしっかりと見抜く人だと今回のことでわかったから、交渉は真剣にならないと失敗するよ」

 坂本の表情が引き締まった。

 「森下君って、練習終わりはいつも最後まで残ってるよね。明日、その時を見計らって、私からコンタクトをとってみることにするよ」

 そして翌日、グラウンドで一人残って練習を続けている森下に、坂本と加賀は話しかけたーー


▼30日間の革命 1日目~9日目
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