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30日間の革命 #毎日小説1日目

 そこには、いつもと同じ安心感があった。同じ空間、同じ物、同じ人、同じ時間。変わらないことこそ、私の存在を肯定してくれている。それが、私にとっての真実であった。

 今年の夏はとくに暑かった。どこかの街で最高気温が更新されたらしい。それでさえ、私にとっては日常だった。夏休みが終わり、新学期が始まる。私は高校の教師として8年間、この流れを繰り返してきた。今年も何も変わらない。そう思っていた。

 変化の兆しが見え始めたのは、1名の欠席からである。坂本小春は変わり者ではあったが、模範的な学生であり、成績も優秀であった。どこが変わり者なのかというと、毎日の行動が全て同じであったからだ。登下校時間、服装、髪型、弁当、持ち物等々、目に見える行動が全て同じに見えた。もちろん欠席もしたことはない。彼女の欠席は1日だけであったが、私の中に確かな違和感を残していた。

 都立武蔵中央高校は、伝統的な文化を重んじる校風である。規則違反は厳しく指導され、校内にはいつも独特な緊張感が漂っている。この学校では変わらぬことが正義なのだ。だからこそ、坂本小春は模範的な学生として、教職員からの評価も高い。様々なことが変わりゆくこの世界や日本において、坂本の存在は私にとっても貴重なものだった。

 私は変わらぬことを望んでいる。この日常が愛おしく、そして日常の中の私が、私であることを支えてくれている。異常なまでの「変化」に対する嫌悪は、幼少期からの経験にある。転勤族の家庭に生まれた私は、幼稚園~中学までの間で7回の転校を経験した。自分の居場所を見つけた途端、転校の繰り返しであった。そしてそんな生活のため、父親も離婚を繰り返し、現在私には3人の母親がいる。何かが変わるたびに、新しい私を作っていた。それは、転校する度、クラスに馴染むための私であり、新しい母親に可愛がってもらうための私である。だからこそ、変化の中にいては、私が変わり続けてしまう。何も変わらぬ日常こそが、変わらぬ私を存在させている。これが私、「高橋和仁」なのである。

 坂本の欠席から数日たった月曜日、クラスでは文化祭に向けた話し合いが行われていた。武蔵中央高校では、毎年11月3日文化の日に文化祭を行うことに決まっている。夏休み明けから、本格的に準備が始まる。各クラス必ず1つの出し物を行うこととなっているが、屋台をだしたり、お化け屋敷を作ったりといったことではない。各クラスで演劇を作りあげ、文化祭当日に発表を行うのだ。これも伝統である。そして、この文化祭こそが、これから始まる革命の序章であったーー。

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