30日間の革命 #毎日小説8日目
大友孝一は武蔵中央高校の野球部監督である。自身も武蔵中央高校の野球部OBであり、監督就任10年となる。とにかく厳しいことで有名であり、野球部のみならず、ほとんどの生徒から恐れられている。しかし、その厳しさ故、生徒からは敬遠されており、中には悪口を言う人も少なくない。しかし森下は違った。どんなに厳しい指導やトレーニングでもついていき、決して反抗することはない。加賀の言う通り、一種の”洗脳”にも見えなくはない。
「なんで大友先生ってあんなに厳しいのかな?」
坂本たちはまた屋上から野球部の練習を見つめながら話していた。
「生徒に煙たがられていることくらい気づいていると思うんだよな。もうちょっと歩み寄ってくれれば、俺たちもそこまで嫌わないんだけどね」
「私は怒られたことないよ」
「そりゃ小春を怒る先生はいないよ。俺なんてさ、大友先生とすれ違ったのに気づかなくてあいさつしなかっただけで、めっちゃ怒られたよ」
「厳しいね」
「厳しいなんてもんじゃないよね。あそこまでいくと理不尽だよ」
「みんなもそうやって感じてるのかな?」
「まあ恐れて悪口を言わない生徒も多いけど、少なくとも俺の周りの男子は『大友まじでムカつく』って言ってるよ」
「ふーん。まあ気持ちは分からなくはないけど。そう考えると、森下君ってすごいよね」
「さっきも言ったけど、異常だよ。洗脳されているか、物凄いドMかのどちらかだね」
「ドMって何?」
「……それ冗談?」
「どういうこと? ねえドMって何のことなの?」
加賀は顔を赤らめた。
「なんか小春といるとペース狂うんだよな。まあそんなことは置いといて、とにかく何で森下はあんなに真面目なのかを考えよう」
「そうだね。ならさ、観察も十分できたし、明日森下君と話してみようよ」
「お、いよいよ行動開始だな。ならまずは俺から話しかけてみるよ」
翌日、加賀は昼休みに3組へと向かった。森下とは1年生のころにクラスが同じだったので面識はあったが、話しかけることに対して少しの緊張感があった。
「森下! ちょっとだけ時間ある?」
加賀は、クラスメイトと弁当を食べている森下を呼んだ。森下は不思議そうに友人と顔を見合わせてから、ゆっくりとこちらへ向かってきた。
「どうしたの? 加賀から話しかけてくるなんて、結構久しぶりだな」
「そうだっけ? 1年生の時以来かもね。まあまあ、それでさ、話ってのは大友先生のことなんだけどね」
「監督? もしかして何かやらかした?」
森下は察するように加賀へ問いかけた。
「いやいや、何もやらかしてないよ。実は来週から1組の掃除当番が体育教官室なんだよ。あの人まじで怖いから、野球部キャプテンから攻略法を聞いておこうと思ってね」
「なんだよそれ。攻略法なんてあるわけないだろ。真面目に掃除してりゃ怒られることなんてないよ」
森下は笑って答えた。
「いやー、そうなんだけどね。なんか怖いじゃん。どういう人かだけでも教えてよ」
「どういう人って、見たまんまだよ。ルールを守らない奴にはとことん厳しいってだけ」
淡々と答える森下に、加賀は少しだけ焦った。
(このまま帰ったら小春にも怒られそうだな)
「まあ確かにね。なら掃除頑張るしかないかー。ちなみにさ、森下は大友先生怖くないの?」
加賀は少し踏み込んで質問をした。森下は、一瞬考えるような顔をしたが、すぐに笑顔になってこう答えた。
「そんな怖がるような人じゃないよ。みんなが知らない一面もあるんだよ。なら怒られないように掃除頑張れよ」
そう言い残すと、森下はクラスメイトの元へと戻っていった。
(みんなが知らない一面ってのがあるんだな)
加賀は、得た情報を坂本に報告するため、屋上のベンチへと向かったーー
▼30日間の革命 1日目~8日目
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