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30日間の革命 #毎日小説53日目

 「お、お先に失礼します!」

 女子バレー部の部員たちは、江藤に挨拶をしながら早々に部室を後にした。橋田も、そうせざるを得なかった。部室から教室へ戻る途中、2年生の部員たちは手崎の話題でもちきりだった。

 「江藤さん、めっちゃキレてたよね。手崎って子、まじでヤバいんじゃない」

 「てか、よくあそこまで粘れたよね。私なら、帰れって言われたらすぐ帰るよ」

 「それよりも、このせいで明日から江藤さんもっと厳しくなったら、まじで最悪じゃない?」

 「大丈夫だよ。きっとターゲットが手崎に集中するだけだよ」

 橋田は会話に加わることなく、終始無言だった。

 (昨日の今日ですぐ行動する奴がいるかよ。せめて私が一緒にいられる場面だったら、色々とフォローもできたのに。でも、もうどうなっても事は動き出したから、私もやれることをやらなきゃ。……これから手崎はどうなるんだろう)

 この事態にどう対処したらいいかを考えながらも、手崎のことを心配していた。

  一方、部室では江藤と手崎の二人きりとなった。二人きりになるや否や、江藤から

 「で、何なの? 話って」

 と手崎に詰め寄った。手崎は恐怖で膝が震えながらも、何とか答えた。

 「せ、先輩が挨拶に来いって言っていたということだったので、あ、挨拶にきました」

 「はあ? 挨拶? そのためにわざわざ部室まで来たのかよ」

 「は、はい」

 「あんた馬鹿じゃないの? 時間考えろよ。こんな朝練終わりの忙しいときに来る奴がいるかよ。迷惑なんだよ」

 江藤のキツイ言葉遣いや口調に、手崎の心は折れそうになっていた。しかし、

 「あ、挨拶に行くなら、は、早めの方がいいかと思いまして」

 と、かろうじて言葉を返すことが出来た。

 「まじでこんなことのために時間取られるなんてあり得ないんだけど。それにあんたさ、何で自分が呼び出しくらったのか分かってる? 全部自分勝手なんだよ。人のことを考えずに自分勝手に行動するから、周りに迷惑かけてんだよ。自覚ある?」

 手崎は”自分勝手”と言われ、どっちが自分勝手なんだと心の中で思った。恐怖心の中にも、小さな怒りが芽生え始めていた。そんな手崎をよそに、江藤は更に話しを続けた。

 「あんたさ、まじでその自分勝手な性格直した方がいいよ。てか、私がその性格直してやるよ。まず、今日から私とすれ違う時は、絶対挨拶しろ。私が気づく前に、お前から近寄って来いよ。それと、毎朝と放課後、体育館のモップがけを一人でやれ。……それと最後に、白の会も辞めろ。お前なんか場違いなんだよ。その性格を直すまで、バレー部で預かってやるから、今日辞めるって言ってこい。バレー部に入部したいから、辞めますって言うんだぞ」

 どれも理不尽なことばかりだった。しかし、こうして女子バレー部のキャプテンは徹底的に指導をすることで、周りから恐れられる存在となっていた。逆らうとどうなるのか、それを周りの人たちにも見せつけるため、その指導の内容は厳しいものだった。

 江藤は時計を見て、始業の5分前であることを確認して、

 「なら、話は以上だから。今言ったこと、今日から絶対実行しろよ。一つでもやれてなかったら、もっと厳しく指導するからな」

と手崎に告げ、荷物を持ち部室を後にしようとした。

 すると、

 「……やです」

 と小さな声が聞こえた。江藤は振り返り、

 「はあ? 今なんか言った?」

 と手崎に再び詰め寄った。

 「……い、嫌だって言ったんです。どれも私はやりません。バレー部にも入らないし、白の会も辞めません!」

 手崎はそう力強く江藤に向かって発した。

 「……お前まじでなめてるな」

 江藤は、その額に青筋を立てながら、手崎の胸倉を思わず掴んだ。江藤にとって、反抗されたのはこれが初めてだった。


▼30日間の革命 1日目~52日目
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