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30日間の革命 #毎日小説54日目

 江藤は、女子バレー部のキャプテンになってから、全て自分の思い通りに物事が進んでいた。誰も逆らう者はおらず、教師ですら干渉してこない。江藤がかつて憧れた女子バレー部のキャプテンを超える存在になれたことに、江藤は満足をしていた。

 しかし、今自分自身の目の前にいる、小さくてひ弱な女子生徒は、自分の指示に「嫌です」とはっきりと答えた。江藤のプライドは、それを許すことが出来なかった。

 「お前さ、今自分がどんな状況かわかってんの? 嫌ですなんて言える立場じゃねぇだろ。私の言うことを聞いてりゃ許してやるって言ってんだよ。二度も言わせるなよ」

 江藤は手崎の胸倉を掴みながら、詰め寄った。そして、ここまでやれば、手崎も自分に従うだろうと思っていた。

 「な、なんで私の生活を先輩が決めるんですか。そんな権利ないと思います。……じ、自分勝手なのは先輩の方だと思います」

 それでも手崎は折れなかった。そして、この時ちょうど始業を告げるチャイムが学校内に響き渡った。

 チャイムが鳴り止んだあと、江藤は掴んでいた胸倉を突っぱねるように離した。

 「……わかったよ。なら、どっちが自分勝手なのか、みんなに判断してもらおう。私は今日からお前を徹底的に指導する。それと、私以外の部員にも、お前を見かけたら指導するように命令する。もし私の方が自分勝手なら、みんなも私の命令には従わないだろ。もしそうなったら、その時は素直にお前に謝ってやるよ」

 江藤の提案は、100%江藤に有利なものだった。今の女子バレー部で、江藤に逆らえる者なんていない。江藤も、それをわかっていての提案だった。

 「そ、そんな。そんなの江藤先輩に逆らう人なんているわけないじゃないですか」

 手崎もそうなることは容易に想像がついたため、反対した。

 「私は命令するけど、拒否することは誰だって出来る。お前だって現に私の命令を拒否してるだろ。それでも私に従うってことは、私の方が正しいってことだろ? 違うか?」

 「……そ、それは」

 手崎は言い返すことが出来なかった。

 「じゃあ、そういうことだから。お前が今日素直に私の言うこと聞いてりゃ、こんなことにはならかったのにな。今日から覚悟しておけよ。それと、これはあくまでお前のその腐った性格を直してやるための指導だからな。誰かに泣きつくんじゃねぇぞ」

 そう言うと、江藤は再び荷物をまとめた。

 「お前、ここの部室の鍵締めとけよ。それと、その鍵は放課後絶対ここまで返しに来いよ」

 そう言うと、部室の鍵を手崎に投げつけ江藤は部室を後にした。江藤がわざわざ手崎に鍵を預けたのは、放課後に強制的にバレー部へ来させるためだった。そして、手崎が鍵を返しに来たら、部室の掃除をやらせようと思っていた。先ほどまでの怒りは消え、今度はどうやって手崎を追い込んでいこうかと楽しみになっていた。

 手崎はその場にへたり込んだ。何でこんなことになったのか、今何が起こったのか、自分でもよく理解が出来ずにいた。そして、軽率に動いてしまった自分を悔いた。これから起こることを想像すれば 、今までの不安なんて目じゃないほど、怖くなった。手崎はしばらくの間、立ち上がることはできなかった。


▼30日間の革命 1日目~53日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

takuma.o

 

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