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30日間の革命 #毎日小説55日目

 手崎はしばらくそのままバレー部の部室にへたり込んだ。不安や恐怖で、体を動かすことが出来なかった。そのまま、気づけば一限目を終えるチャイムが校内に鳴り響いた。それをきっかけに、手崎はようやく重い腰を上げることができた。手崎は、バレー部の部室を後にし、ふらふらとおぼつかない足取りで自分の教室へと戻っていった。

 階段に差し掛かったところで、橋田が手崎を待っていた。手崎が歩いてきたことに気づき、橋田は手崎に駆け寄った。

 「とりあえず、こっちおいで。人目につかないところへ行こう」

 そう言うと、橋田は手崎を保健室まで連れて行った。保健室へ着くと、

 「すいません、この子登校中に貧血になったみたいで、少し休ませてもいいですか?」

 と保健室にいた養護教諭へ伝えた。そして、手崎を保健室のベッドへ寝かせカーテンを閉めた。

 「いい、とりあえず昼休みまではここで休んでな。クラス違うけど、先生には体調不良ってことで私から伝えておくから」

 手崎は泣きそうな顔を見せながら、

 「わ、私……そ、その……」

 と、何かを伝えようとしていたが、言葉が上手く出てこない様子だった。

 「いいの、無理してしゃべらなくて。とりあえず、今は休みなさい。また昼になったら話しを聞きにくるから。それまでは、ここにいないさい」

 二限目の予鈴が鳴った。

 「なら、私は授業に戻るけど、また絶対戻ってくるから。ゆっくり寝てなさい」

 そう言い残し、橋田は授業へと戻っていった。

 手崎は、ほんの少しではあるが、気持ちが軽くなっていた。自分のことを気にしてくれている人がいるということが、何よりも心の支えになっていた。その後、養護教諭に少し問診され、昼まで保健室で休むことになった。手崎は、現実から目を逸らすため寝ようと試みたが、どうしても江藤の顔が思い浮かび、眠りにつくことは出来なかった。そして、預かったままのバレー部の部室に鍵が、手崎にとってはとても重たく感じた。早く昼休みになって、橋田と話したい気持ちと、放課後になってほしくない気持ちが心の中でぶつかっていた。

 その間、手崎のことは2年生を中心にあっという間に噂として広まっていた。手崎が不在なこともあり、「もう学校辞めるんじゃない」などといった話しまで出回っていた。

 そして、あっという間に時間は流れ、昼休みとなった。橋田は走って保健室へと向かった。そして、手崎が寝ているベッドのカーテンを開けた。すると、手崎は布団を頭までかぶってうずくまっていた。

 「大丈夫か?」

 橋田が一言声をかけると、手崎はすっと布団から顔を出した。

 「橋田さん。来てくれてありがとう。大丈夫です」

 橋田の顔を見て、手崎は少し笑顔になった。

 「そっか。なら良かったよ。とりあえずご飯でも食べながら話そうよ」

 そう言うと、橋田は持ってきた弁当箱を広げた。手崎も、かばんから弁当箱を取り出し、二人で弁当を食べながら話した。

 「まずさ、あの後どうなったか教えてよ」

 橋田は、江藤と二人きりで何があったのかを聞いた。

 「……江藤先輩に、挨拶に来たことを告げました。でも、江藤先輩はなぜかもっと怒ってしまいました」

 「まあ、今朝の朝練でかなり不機嫌だったからな。もともと朝は機嫌が悪い上、今日のあのタイミングは最悪だっと思うよ、正直な話ね。確かに私は挨拶に行けっていったけど、何でこんなすぐに来ちゃったの?」

 「……すいません。思ったらすぐ行動しちゃうのも、私の悪い癖なんです。それに挨拶だけすれば、すぐに終わる話だと思っていました。でも全く逆効果でしたね……」

 「それで、続きは?」

 手崎は、橋田に部室で起こったこと、全てを細かく話した。橋田は話しを聞き終えると、頭に手を当ててこう答えた。

 「……それは正直きついね。ということは、私たちにもあんたを厳しく指導しろってことでしょ? それって私たちバレー部員を試していることにもなるよ。ここで江藤さんに従わなかったら、その時点でその人もターゲットにされるよ」

 「……はい。だから私考えたんです。橋田さんも江藤先輩に従ってください」

 手崎の提案に橋田は思わず驚いた。

 「ちょっと、それって私があんたをいじめろってことでしょ。正直、ここまで話を聞いたらそれは無理だよ。何とか江藤さんに、今回のことを許してもらえるように作戦考えるから、あんたも諦めるなよ」

 「いえ、諦めたのではありません。正直な話し、橋田さんが来てくれるまで本当に不安と恐怖で泣きそうでした。でも、昨日『何かを変えたいなら泣いてちゃダメだ』っていう橋田の言葉を思い出しました。それに、こうやって実際に私のところへかけつけてくれた橋田さんの顔を見れて、決心がつきました。私は、徹底的に江藤さんへ反抗します。絶対に折れません。やはり自分勝手なのは江藤先輩だと思います。それを自分の行動で証明してみせます」

 手崎は力強く言葉を発した。橋田は再び驚いていた。泣いてさえいるんじゃないかと思っていた手崎が、江藤に反発することを決めていたことに。

 「ちょ、ちょっと。何言っているよ。一人でどうにかなる問題じゃないよ。江藤さんは本当に徹底的にあんたをいじめてくるよ。……それなら私も協力するよ。そこまであんたが決心してるなら、私もいっそのこと江藤さんに反発しようかな」

 すると手崎は、

 「いえ、橋田さんはそのままで大丈夫です。今、橋田さんが江藤さんのターゲットになってしまえば、女子バレー部のキャプテンになることは出来ないと思います。私は、橋田さんに女子バレー部のキャプテンになってほしいと思ってます。そして、この学校を変えてください。私はこれでも白の会の一員です。これが私なりの革命の起こし方です」

 と橋田の目をしっかりと見つめながら答えた。そして、

 「橋田さん。ほんの少しでしたが、私はあなたと話すことが出来て良かったです。もし、私が江藤さんに打ち勝つことが出来て、橋田さんが無事に女子バレー部のキャプテンになれたら、その時は友達になってください」

 手崎の言葉に、橋田は少しだけ目に涙が浮かんだ。


▼30日間の革命 1日目~54日目
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