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30日間の革命 #毎日小説56日目

 昨日、あんなに泣きじゃくっていて、か弱いと思っていた女の子が、こんなにも強いものを持っていたことに橋田は素直に驚いていた。だからこそ、白の会に選ばれているんだと、橋田は納得をした。

 「本当に大丈夫?」

 橋田は、最後に手崎へ確認した。

 「はい。もちろん、途中で心が折れそうになると思います。でも、自分は一人じゃないって思えるので、乗り越えられそうです」

 手崎は笑顔で答えた。

 「……わかった。なら、私も頑張るよ。絶対このおかしな制度を変えてみせるから、それまで一緒に頑張ろう。あ、それと……」

 橋田は、何かを思いついたようだった。

 「もし心が折れそうになったら、またあの屋上で話そう。あそこなら人目につかないだろうから、二人きりで話せるよ」

 「え、本当ですか!」

 「もちろんよ。昨日、あんたが立ち向かったら何時間でも話しを聞いてやるって言ったでしょ。もし何かあったら、私に連絡しなさい」

 そういうと、橋田は自分のスマートフォンを取り出し手崎と連絡先の交換を行った。

 「あの屋上って、いつでも鍵は開いてるんですかね?」

 手崎はふとそう思った。

 「うーん。いつもは空いてないと思うな。空いてたら多分他の学生もたくさん行ってるだろうし。まあ、時々ああやって空いているかもしれないから、私がちょくちょく様子を見ておくよ。鍵が開いてたら連絡するね」

 「ありがとうございます。なんか頑張れそうな気がします!」

 二人はいつしか笑顔で話しをしていた。橋田にとっては不思議な感覚だった。励ましに来たつもりが、元気になっていたのは自分の方だった。また、手崎にとっても、はじめて”友達”になりたいと思える存在が出来たことに喜びを感じていた。

 二人の時間はあっという間に過ぎ、次の授業の予鈴が鳴った。

 「そろそろ時間ね。なら、私も教室へ戻るからあんたも頑張ってね。多分教室へ戻ったときから、いつもと違う空気になっていると思うから」

 「……はい。覚悟しておきます。それと、バレー部の部室の鍵は責任を持って放課後に返しにいきます」

 「うん。それも多分、鍵を返して終わりってわけにはいかないと思うから。でも、一人じゃないから。それだけは忘れないでね」

 「はい!」

 手崎は力強く返事をした。そうして、先に橋田が戻り、手崎は養護教諭に授業へ戻ることを伝えてから教室へ戻った。そして、保健室を出て教室へ戻る間にも、既にいつもと違う雰囲気になっていることに手崎は気づいた。

 廊下を歩くだけで、いつもの倍以上の視線を感じた。手崎が通り過ぎれば、後ろでひそひそと何かを話されていることも感じることが出来た。それもそのはず。手崎の噂は、もうほとんどの女子生徒の間で広がっていたのだった。

(こんなことで折れちゃだめだ)

 手崎は自分自身に言い聞かせながら、なんとか自分の教室まで辿り着いた。しかし、教室へ入ると更に強烈な視線を感じた。手崎が教室へ戻った瞬間に、教室の空気が一瞬止まり、視線が一気に手崎へと集まった。手崎は今までに感じたことのない”嫌な注目”にひるんだが、ゆっくりと自席へと戻っていった。

 教室の空気は徐々に戻っていったが、

 「手崎さん帰ったんじゃなかったんだ」

 「もう学校辞めたかと思ったよ」

 などといった会話が教室のあちこちでされ、それは手崎にも聞こえていた。間もなくして、午後の授業が始まった。授業中は、いつもと変わらず淡々と時間だけが進んでいった。そして、最後の授業も終わりが近づき、それに合わせて手崎の心臓の音も大きくなっていった。ここでも、バレー部の部室の鍵がとてつもなく重たいものに感じた。


▼30日間の革命 1日目~55日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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