30日間の革命 #毎日小説59日目

 「おい! お前らもっとしっかり動けよ! 今朝とまったく変わってねぇじゃん!」

 体育館には、江藤の怒号が響き渡っていた。江藤は手崎に逃げられ、いつも以上に機嫌が悪くなっていた。そうなると、バレー部の後輩たちへの当たりが強くなる。江藤にとって、部活はストレスのはけ口となっていた。

 「お前ら全然ダメだよ。今からグラウンド10週走ってこい!」

 江藤は一人のミスをきっかけに練習を中断させ、1、2年生に罰を与えた。そして、橋田を含めた1、2年生たちは、グラウンドへ出て走り始めた。

 「朝より機嫌悪いじゃん。もうまじで最悪だよ」

 「絶対手崎のせいだよ。だってさっき部室の前にいたもん。江藤さんとまた何か揉めたんだよ」

 「えー。もう本当にやめてほしいよ。そのとばっちりは私たちにくるんだから」

 「手崎がぼーっとしてるから、余計江藤さんの気にさわるんじゃないの?」

 「まじであり得ない」

 2年のバレー部たちの不満は、江藤ではなく手崎に向かっていた。

 「ねぇ、加代子もそう思うよね」

 橋田も部員たちから同意を求められた。

 「……う、うん。そだね」

 今の橋田は、そう答えるしかなかった。もしここで江藤のことを悪く言い、それが江藤本人に伝わってしまえばターゲットにされる。そうなれば、キャプテンになるどころの話しではなくなる。今はとにかくリスクを避けるしかなった。


 時を同じくして、坂本は生徒会の仕事のため、一人生徒会室で作業をしていた。すると、「コンコン」とドアがノックされた。

 「はい」

 坂本が返事をすると、

 「失礼します。坂本さんいますか?」

 と、訪ねてきたのは3年の仙波美波だった。

 「あら、2組の仙波さんだよね? どうしたの?」

 「私の名前知っててくれたんだ。坂本さんに知っててもらえたなんて嬉しいよ」

 仙波はそう言うと、生徒会室へと入ってきた。坂本と仙波はクラスが一緒になったことがなかったので、お互い話したことはなかった。しかし、ともに校内では名の知れた者同士だったため、お互いに名前と顔は知っていた。

 「ええ、もちろんよ。でもこうやって話すのは初めてだよね」

 「そうだね。今まで中々話す機会がなくて、いつか話したいなって思ってたんだ」

 仙波は笑顔で答えた。

 「それで、今日はどうしたの?」

 「うん。実は坂本さんに相談があって来たんだ。今ちょとだけ時間大丈夫?」

 「相談? ええ、もちろん大丈夫よ。ならこっちに座って」

 坂本は作業していた手を止めて、仙波をソファーへと案内した。

 「で、相談っていうのは?」

 仙波はうつむき、少し間をおいてから答えた。

 「……もしかしたら坂本さんも知ってるかもしれないけど、今付き合っている子がいるんだ。それで、最近その子からの当たりが強くなってきていて正直辛くなってきてるの」

 「……それって、馬場君のこと?」

 「うん。やっぱ知ってたんだね」

 「ええ。校内でも二人が付き合ってるってことは噂になっていたからね。でも、何で私に相談を?」

 「白の会っていうのに、彼も入っているでしょ? 彼もああいう性格だから、普通の人の言うことは中々聞かなくて。でも、彼も坂本さんのことは一目おいてるみたいだから、思い切って坂本さんに相談してみようと思ったの」

 「……そうだったんだ。それで、具体的には当たりが強くなったっていうのはどういうことかしら?」

 「……うん。最近、私の言うことを全く聞いてくれなくて、遊びに行こうって誘ってもすぐ断られるし、一緒に帰ろうとするだけでも断られるの。それで、この前思い切って強引に一緒に帰ろうとしたら、突き飛ばされて……。怪我とかはしてないんだけど、それから少し彼のことが怖くなったの。彼もそれ以来、私に対して冷たくなるし、口調もだんだんと強くなってきて、私どうしたらいいか分からなくなって……」

 仙波は、話しながら少し涙を浮かべているようだった。

 「……そうだったんだ。どうしたらいいか分からなくなったんだね。彼と別れるっていう選択肢はあるの?」

 坂本が質問をすると、仙波は一瞬固まった。

 「……できれば別れたくはないんだ。私もわがままだってことは理解しているけど、付き合った頃の彼は本当に優しくて、年下だけど一緒にいても凄く楽しかったんだ。だから、前の彼に戻ってほしいって思ってる」

 坂本は少し考えてから、口を開いた。

 「そうなんだ。でも、手が出るのはよろしくないわね。私から彼に注意しようか?」

 「いや、多分坂本さんに私が相談したってことがバレたら、余計にひどくなると思うの。このことを坂本さんには知られたくないと思うし」

 「そっか。なら、私はどうしたらいい?」

 「一個だけお願いがあるの。彼との問題は、私自身でまずはどうにかしてみるから、これからも相談に乗ってもらってもいいかな? もちろん毎日ってわけじゃないよ。たまにこうして話を聞いてくれるだけでいいんだ」

 「……それだけでいいの? 私でよければ、いつだって相談に乗るわよ」

 「本当に! ありがとう! こんなこと相談できるのは坂本さんしかいないと思ってたから嬉しい! なら、良かったら連絡先交換してもいい?」

 「ええ、いいわよ。でも私はSNSやってないから、メールアドレスでいいかしら?」

 「……そ、そうなんだ。珍しいね。ならメールアドレスでいいよ」

 そして、二人は連絡先を交換した。

 「なら、これから何かあったら坂本さんに連絡するね! 今日は突然相談に乗ってくれてありがとう!」

 そう言うと、仙波は生徒会室を後にした。坂本は、携帯に表示された仙波の連絡先をしばらく見つめてから、パタッと携帯を閉じた。


▼30日間の革命 1日目~58日目
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