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30日間の革命 #毎日小説50日目

 橋田からストレートに「みんなに陰口を叩かれている」と言われ、再び手崎は泣きそうになった。何とくなくそうだろうなとは思っていたが、その事実が明るみに出ると、やはり傷つくものである。手崎は心が押しつぶされそうになっていた。

 「泣いちゃダメだよ」

 橋田が言った。

 「泣きたい気持ちは十分わかるよ。でも、泣いたって誰でも助けてくれないんだよ。だから、今出来ることは泣かないこと。ぐっとこらえるんだよ」

 橋田の表情は先ほどまでと打って変わって、力強くなっていた。手崎は、正直なぜ泣いちゃダメなのかは分からなかった。でも、橋田の言葉を信じてみようと思った。ふと気を抜けば、すぐにでも涙がこぼれ落ちそうな状態だったが、必死にこらえた。

 「私もね、この学校を変えたいと思ってるんだ。まあ、変えようったって、白の会よりも全然ちっぽけなことなんだけどね。でも、そのためには泣いてちゃダメなんだって気づいたの。何かを変えるために、自分を犠牲にしてずっと泣くのを我慢していた人を私は知っている。私は、その人のためにも、立ち止まっちゃダメなんだって。そして、どんなことをしても学校を変えてやろうって思ったの」

 手崎は、橋田の表情から「力強さ」の他に、ほんの小さな「優しさ」を感じることが出来た。

 「正直言うと、さっきまであんたに陰口のことを言おうか迷ってたんだ。多分、これを言ったらあんたはもっと傷ついて、もっと泣いちゃうんじゃないかって思ってね。でも、今あんたにこのことを言わなかったとしても、事実は変わるわけじゃない。このまま見ぬふりをして過ごしてちゃ、結局何も変えられないって思ったわ。あんたも、薄々は勘付いていたのに目を向けることが出来ていなかったよね。それを聞いて、あんたも私も、この問題から逃げちゃだめだって思ったの。だから私は、あんたに優しくしない。慰めたり、同情したりもしない。私は私のやるべきことをやるわ」

 手崎は橋田のことをじっと見つめながら話を聞いた。言葉は少し乱暴ではあるけれど、坂本や加賀たちに感じていた「信念」のようなものを、橋田にも感じていた。

 「あんたも白の会の一員なんでしょ。だったら、自分でこの状況を変えなさい。この状況すら変えられないなら、坂本先輩とか加賀先輩についていくのは到底無理だと思うよ。ただのお飾りになりたくなければ、自分で行動するの。だから、今から言うことをちゃんと聞いて」

 そう言うと、橋田は少し胸で息を吸ってからこう続けた。

 「今週中に、女子バレー部キャプテンの江藤さんに会いに行きなさい。彼女が、この問題を解決させるために乗り越えなくちゃいけない壁になるわ」

 手崎は驚いた。手崎でさえ、女子バレー部の噂は聞いている。そして、江藤の存在も知っていた。後輩であれば、女子バレー部でなくても、彼女のことは怖い存在であった。

 「な、なんで江藤先輩に会いにいかなくちゃいけないんですか」

 手崎は橋田に質問をした。

 「……これも正直言うわね。あんたは、江藤さんから目をつけられてるんだよ。江藤さんが、あんたに挨拶に来いって言っていて、今日私はそれを伝えるために会いにきたの」

 その事実を知り、再び手崎の心に大きな重りがのしかかった。学校中で陰口を言われているだけじゃなく、怖いと思っていた女子バレー部のキャプテンに目をつけられるなんていう事実を簡単には受け入れることが出来なかった。

 「そ、そんな。何で私が目をつけられなくちゃいけなんですか。何か私は悪いことをしたんですか」

 「あんたが白の会に入って、加賀先輩たちと仲良くしているのが気に食わなかったんでしょ」

 「それだけですか。そんなことで学校中から陰口を言われなくちゃいけないんですか」

 手崎は理不尽だと思った。何か悪いことをしたのならともかく、ただ加賀たちと一緒にいるだけで、何で嫌われなくちゃいけないのかと、そう思った。

 「そんなものよ。それに理由なんて正直どうでもいいのよ。ただ気に食わないから。それだけなの。そうやって、簡単に人の心を踏みにじる人もいるんだよ」

 手崎の心は耐えられなかった。陰口を叩かれていたのが、そんな理不尽な理由だったことに憤りを感じ、やるせない気持ちになった。手崎の目からは、先ほどよりも大粒の涙が溢れかえった。

 「……はぁ、まったくしょうがないわね。泣いちゃダメだってさっき言ったばっかじゃない。ほら、まだティッシュあるから、これで拭きなさい」

 そう言いながらも、橋田は手崎に寄り添っていた。


▼30日間の革命 1日目~49日目
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takuma.o


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