３０日間の革命 ＃毎日小説５７日目
江藤は授業が終わるのを心待ちにしていた。自分に対して、生意気にも歯向かってきた手崎を徹底的に追い込もうと息を巻いていたからだった。手崎にあえて部室の鍵を託したのも、逃げられなくするためだった。もし、部室の鍵を返しに来なければ、それはそれでバレー部に迷惑をかけたという理由も加わり、より追い込むことが出来る。もし素直に返しにくれば、その時点で、女子バレー部全員を巻き込んで、手崎を追い込む算段だった。もし、誰か別の人に鍵を託して逃げるようだったら、その時は鍵を託された人も含めて追い込んでいくつもりだった。手崎がどのような行動をとっても、手崎にとって苦痛になるように考えていた。
そして、最後の授業を終えるチャイムが鳴った。簡単なHRが終わり、江藤は部室へと向かった。普段は、後輩たちが部活の準備を全て整えるのを待つため、クラスで友人たちと話してから部活へ向かうのだが、この日はすぐに部室へと向かった。
部室の前に着くと、既に部室の鍵は空いていた。そして、後輩たちは既に着替えを終え、体育館のコートで部活の準備をしているようだった。
（ちっ、誰かに鍵預けて逃げやがったか）
そう思い中へと入ると、部室の隅に手崎の姿が見えた。手崎は、江藤の姿が見えると、
「……か、鍵はちゃんと皆さんが来る前に開けました。そ、それと、直接お返ししようと思って待っていました」
と言い、部室の鍵を江藤へと渡した。
「……へぇー。偉いじゃん。ちゃんと返しに来たんだね」
「は、はい。……で、ではこれで失礼します」
江藤は、てっきり逃げたしたかと思っていたので、手崎が直接鍵を返したことを意外に思った。ただ、当然それだけで帰すわけにはいかない。帰ろうとする手崎を呼び止めた。
「まあまあ、せっかく来たんだしゆっくりしていきなよ。それに今朝はきつくあたって悪かったよ。挨拶しに来てくれたんだろ。ならもっとゆっくり話そうよ」
そう言い、部室のドアを閉めた。
「あ、でも、今朝言ったことは忘れてないからね。どっちが自分勝手か決めるって話し。多分、もう少しで３年の部員も来ると思うから、そこでみんなに聞いてみようよ」
江藤の口調は、今朝よりも穏やかだったが、手崎にとっては逆にそれが怖かった。
すると、部室のドアが開き、数名の３年女子バレー部員たちが入ってきた。
「お疲れー。あれ、江藤ちゃん今日は早いじゃん。え、ていうか今朝の子、まだいるじゃん」
そのうちの一人が、手崎の存在に気づき、少し笑いながら江藤へ話しかけた。
「そうなんだよ。わざわざ私のところに挨拶に来てくれたみたいだから、ちゃんと話を聞いてあげようと思ってね。でもさ、こいつもひどいんだよ。急に私のことを自分勝手だって言い張るんだよ。結構失礼じゃない？ 朝の忙しい時に急に訪ねて来て、どっちが自分勝手なんだよって話しだよね」
江藤も少し笑いながら、３年の部員たちに話した。
「えー、それは失礼だね。大人しそうに見えて、意外と神経図太いんだね」
部員たちは、部活の準備を始めながら笑って答えた。
「ほら、やっぱそうじゃん。あんたの方が自分勝手なんだって。だからさ、まずはその謝罪も込めて、ここの部室を今日これから掃除しなよ」
江藤は手崎に向かって、部室の掃除を命じたのだった。手崎は、先輩たちに囲まれ、その恐怖から言葉を発することが出来なかった。
「黙ってるってことは、自分の否を認めたってことだよね。なら、掃除道具はあそこのロッカーにあるから。あ、それと、私たちが部活を終わるまで帰っちゃだめだよ。ちゃんと掃除したか確かめるから。なら、よろしくね」
そう言うと、江藤も部活の準備を始めた。手崎はどうすることも出来ず、その場に立ち尽くしていた。
すると、一人の３年の部員が江藤に向かって話した。
「で、でもさ、この子、坂本さんの”白の会”ってのに入ってるんでしょ。坂本さんにこのこと気づかれたら、ちょっとまずくない？」
江藤は少し笑みを浮かべて、こう答えた。
「大丈夫だよ。この子、白の会辞めるから。それで、バレー部に入部するんだって」
すると、今まで黙っていた手崎が急に、
「や、辞めません！」
と一言大きな声を出した。部員たちも、手崎の急な大声に少し驚いた。江藤は、その様子を見て、
「な？ だから自分勝手だって言っただろ？ こいつ、どーしようもないんだよ」
と話した。江藤の口調は、今朝と同じく厳しいものに変わっていった。そして、表情も見る見るうちに険しくなっていき、部員たちはその様子に、同級生でありながらも恐怖を感じた。そして、
「な、なら、私たちはコートに行くから」
と、逃げるようにコートへと向かっていった。再び、部室には江藤と手崎の二人きりとなった。
▼３０日間の革命 １日目～５６日目
まだお読みでない方は、ぜひ１日目からお読みください！
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