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30日間の革命 #毎日小説52日目

 この日、江藤はいつも通りバレー部の朝練に出ていた。朝の江藤は機嫌が悪い。この日の朝練では、後輩たちの連携ミスが目立ったため、特に機嫌が悪かった。練習も途中で中断し、罰として過酷な筋力トレーニングを科した。

 「やる気がないなら辞めろよ」

 江藤の怒号が体育館に響いていた。

 そして、部活が終わり部室で着替えを行うが、いつもなら雑談などでわいわいしている部室も、この日に限っては重たい沈黙に包まれていた。江藤の機嫌は部活が終わっても直ることはなく、雑談なんてしようものなら、同級生であれ、厳しく指導されるのは明白だった。

 そんな沈黙の中、部室のドアがノックされた。

 「……失礼します」

 部員全員の視線が集まる中、ドアを開けたのは手崎だった。

 (うそでしょ。こんな最悪なタイミングで来ちゃダメでしょ。朝は来るなって言っておけば良かった)

 橋田は、手崎の姿を見てそう頭の中で思った。

 「え、江藤先輩いますか……」

 手崎は声を震わせながら、本当に小さな声で尋ねた。

 部室内が沈黙に包まれていたため、声は江藤にも届いてた。しかし、江藤は

 「は? 声小さくて何言ってるか聞こえないんだけど」

 と、威圧的に手崎へと言い返した。

 「す、すいません。え、江藤先輩に用事があって来ました」

 手崎は、震えた声で先ほどよりも少し大きな声を出した。

 「声小せえな。てか、あんた誰?」

 江藤は、手崎の名前は知っていたが、姿までは知らなかった。江藤の威圧的な言いぶりに、手崎は少しひるんでしまい、言葉に詰まってしまった。

「はあ? しかとかよ。声小さいし、名乗らないし、何だよお前は」

 江藤は立ち上がり、手崎へと詰め寄った。江藤はますます不機嫌になっているようだった。江藤の身長は175cmあり、対する手崎は152cmなので、体格の差は歴然だった。そんな江藤に圧倒され、手崎は次の言葉を発せずにいた。

 「て、手崎です。2年生の手崎恭子ですよ」

 声を上げたのは橋田だった。

 「手崎? ああ、こいつが噂の手崎か。で、何? なんか私に用?」

 江藤は再び手崎に詰め寄った。

 「……あ、あの、少しだけお話しする時間をいただけないでしょうか」

 手崎は声を絞りだし、何とか用件を伝えることができた。

 「はあ? 話し? 何でわざわざ私があんたと話さなきゃならないのよ。こっちは朝練で疲れてんのよ。あんたと話す時間なんてないわ。また出直しな」

 そう言うと、江藤は手崎の肩を突っぱね、部室から追い出そうとした。

 (ちょっと、自分から挨拶に来させろって言ってたじゃない。理不尽にも程があるわよ)

 橋田は心の中でそう思ったが、今の江藤を前にして、どうすることも出来なかった。

 「す、少しの時間でいいので、お話しさせてください!」

 しかし、手崎は引き下がらなかった。そして、さっきよりも大きな声で江藤を呼び止めた。江藤は、鬼の形相で振り返り、

 「お前さ、いきなり訪ねて来て時間をくれって、失礼だろ。私はお前と話すことなんてないんだよ。さっさと出てけよ」

 と手崎の顔の目の前で話した。とにかく今日の江藤は機嫌が悪かった。

 「か、帰りません。少しだけ時間をください」

 それでも、手崎は折れなかった。

 「……わかったよ。なら、話し聞いてやるよ。その変わり、くだらない話しだったら、その時は覚悟しておけよ。おい、他の奴らはさっさと部室から出ていけよ。こいつと二人で話しするから」

 江藤は他の部員を追い出し、手崎と二人きりで話すことにした。そこにいた女子バレー部の全員が荷物をまとめて続々と部室を後にしたが、その全員が手崎に同情した。それほど江藤の機嫌の悪さはピークに達していた。


▼30日間の革命 1日目~50日目
まだお読みでない方は、ぜひ1日目からお読みください!

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