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毎日読書メモ

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#講談社

恩田陸『夜明けの花園』(毎日読書メモ(537))

恩田陸『夜明けの花園』(毎日読書メモ(537))

恩田陸続く。
今年の1月に刊行された『夜明けの花園』(講談社)、水野理瀬シリーズ最新刊だが、2022年に雑誌に発表された「絵のない絵本」(学園を出たあとの理瀬が、ヨーロッパ方面のリゾート地で思いがけない事件に巻き込まれる)
2023年に雑誌発表された「月蝕」(学園を出る直前の聖が思い出話と暗殺への不安を並行して語る、過去のおさらい的物語)、書下ろしの「丘をゆく船」(聖のひとり語りにも出てきた、黎二

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川上弘美『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』(毎日読書メモ(517))

川上弘美『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』(毎日読書メモ(517))

川上弘美の近作『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』(講談社)を読んだ。「群像」に2020年から2023年にかけて不定期連載。
六十代の小説家八色朝見の一人称で語られる物語は、コロナのちょっと前から5類移行に至るまでの3年余を、比較的在宅仕事の多い小説家がどのように生きてきたかを語る、エッセイのようにも見える小説だった。
離婚歴があり、おそらく子どものいない八色は、子ども時代、父の仕事の

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今村夏子『とんこつQ&A』(毎日読書メモ(488))

今村夏子『とんこつQ&A』(毎日読書メモ(488))

今村夏子読書シリーズ、最新作の『とんこつQ&A』まで参りました。
過去の今村夏子読書記録: 再読した『こちらあみ子』 父と私の桜尾通り商店街 星の子 むらさきのスカートの女 あひる こちらあみ子

雑誌「群像」に2020~2021年に掲載された中短篇4作。

「とんこつQ&A ]:とんこつ、という名前の町中華、父と不登校の息子できりもりしていたところに採用された今川、客に声をかけられても即応出来な

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多和田葉子『太陽諸島』、地球にちりばめられてシリーズ完結!(毎日読書メモ(447)

多和田葉子『太陽諸島』、地球にちりばめられてシリーズ完結!(毎日読書メモ(447)

多和田葉子の新刊『太陽諸島』(講談社)は2021年から2022年にかけて「群像」に連載されていた、言語をめぐる冒険を描く3部作の完結編。
『地球にちりばめられて』の感想がこちら。
『星に仄めかされて』の感想がこちら。
3部作すべて、彗星菓子手製所という和菓子屋さんのお菓子をモチーフにした装丁で、砂糖菓子のマットな半透明感が美しく印象的。

『地球にちりばめられて』を読んだのが2018年12月、『星

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中島京子『オリーブの実るころ』(毎日読書メモ(436))

中島京子『オリーブの実るころ』(毎日読書メモ(436))

中島京子の近刊、『オリーブの実るころ』(講談社)を読んだ。何しろ、『やさしい猫』で社会問題提起しているのに圧倒されてしまったので、あたかも社会運動の作家みたいな感じになってしまったが、今回の作品は、『やさしい猫』の前に発表された『ムーンライト・イン』同様、圧倒されるような不思議な体験をしているけれど、あまりそれを表に出さずに淡々と生きている人の話を、6つの短編小説それぞれ、違った姿で展開している。

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滝口悠生『長い一日』、そして君はこの2週間何をしていたのか(毎日読書メモ(431))

滝口悠生『長い一日』、そして君はこの2週間何をしていたのか(毎日読書メモ(431))

滝口悠生『長い一日』(講談社)を読んだ。結構分厚い本で、まさか一日に起こった出来事をこの1冊かけて書いている? それじゃジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』だろ、とか思いつつ読み始めた。
結果的にそんなことはなく、「長い一日」はいくつもの章に分かれた物語の一つの章のタイトルであった。小説家滝口とその妻の生活を中心に、滝口の高校時代の同級生の窓目くんとけり子(けり子のパートナーの天麩羅ちゃん)、窓目

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松浦理英子『ヒカリ文集』(毎日読書メモ(430))

松浦理英子『ヒカリ文集』(毎日読書メモ(430))

松浦理英子の新刊『ヒカリ文集』(講談社)を読んだ。「群像」に2019年から2021年にかけて、5回に分けて発表された、文字通り、ヒカリという魅力的な女性についてみんなが文章を寄せた、文集の形式をとった小説。

学生演劇の劇団NTRが解散して長い月日がたった。主宰者だった脚本家破月悠高の謎の遭難死から2年がたち、妻久代が当時の劇団員たちに声をかけ、悠高が残した未完の戯曲を補完するように、戯曲の中に登

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乗代雄介『本物の読書家』(毎日読書メモ(386))

乗代雄介『本物の読書家』(毎日読書メモ(386))

乗代雄介『本物の読書家』(講談社、先月講談社文庫も出た)を読んだ。中編「本物の読書家」「未熟な同感者」の2編所収。「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。
「本物の読書家」は、川端康成の「片腕」、「未熟な同感者」はサリンジャーの「ハプワース 16、一九二四」を中心に据えた、けれんたっぷりの文学解釈小説。両方の作品で言及されているのはサリンジャー、カフカ、フローベールなど。それ以外にも二葉亭四迷、シャ

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井戸川射子『ここはとても速い川』(毎日読書メモ(384))

井戸川射子『ここはとても速い川』(毎日読書メモ(384))

中原中也賞を受賞している詩人の井戸川射子さんの初の小説集『ここはとても速い川』(講談社)、野間文芸新人賞受賞。

「ここはとても速い川」「膨張」の2作品収録。ことばを大切に、丁寧に綴られているのが感じられ、大切に読む。
「ここはとても速い川」は、児童養護施設に暮らす小学生の少年が、一緒に暮らす年下の少年と過ごす日々を時系列で描いていく。児童養護施設というと有川浩『明日の子供たち』(幻冬舎文庫)みた

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原田ひ香『人生オークション』(毎日読書メモ(369))

原田ひ香『人生オークション』(毎日読書メモ(369))

たまたま目についた原田ひ香を続けて読んでいる。今日は『人生オークション』(講談社、現在は講談社文庫)。「人生オークション」「あめよび」の2つの中編小説が収録されている。

「人生オークション」は、人生強制リセットとなった叔母りり子の身辺整理の手伝いをしに行くことになった瑞希(大学を出たが就活に失敗してバイト暮らし)が、叔母との関係性を再構築しながら、共に、叔母が不要となった荷物を次々とネットオーク

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増田明美『カゼヲキル』(毎日読書メモ(363))

増田明美『カゼヲキル』(毎日読書メモ(363))

増田明美さんの『カゼヲキル』(講談社、全3巻)、千葉のマラソン少女の成長譚。増田さんご自身を投影したところ、こういう風に訓練して成長していければよかったな、という願望等、ランナーとして思うところを色々盛り込んだ小説だと思う。
2007年~2008年刊行。文庫本になってないので、あまり知られていないかもしれないが、増田さんを知っている人、マラソン走ってる人などは共感しまくりの小説だと思う。Kindl

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津村記久子『現代生活独習ノート』激おも! (毎日読書メモ(361))

津村記久子『現代生活独習ノート』激おも! (毎日読書メモ(361))

津村記久子『現代生活独習ノート』(講談社)を読んだ。めちゃくちゃ面白かった!

初出はすべて文芸誌「群像」、2012年から2021年にかけて。全く連関のない短篇8編。どれもすごく面白い。簡単にまとめてしまうと、「生きにくさ」について色々な角度から書いているのだが、アプローチが作品ごとに全然違って、読んでいてワクワクする。
表題作「現代生活独習ノート」は驚きのSF、自宅で自営の仕事をしている主人公が

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柳美里『ファミリー・シークレット』(毎日読書メモ(323))

柳美里『ファミリー・シークレット』(毎日読書メモ(323))

柳美里の構築力の強さに心惹かれ、何冊も読んでいた時代の記録。『ラミリー・シークレット』(講談社。のち講談社文庫)の感想。

やや下世話な興味で読む。自分の育ち、自分が子どもに行ってきた虐待的行為、虐待の結果子どもと引き離された母親との対話、畠山鈴香や酒井法子についての考察、そうした断片の間に、カウンセラーとの複数回のセッション、カウンセラー臨席での父との再会の記録が入っているが、読んで感じたのは、

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東野圭吾『新参者』(毎日読書メモ(309))

東野圭吾『新参者』(毎日読書メモ(309))

過去記録より、東野圭吾『新参者』(講談社、のち講談社文庫)の感想。
過去のメモにも書いたように、東野圭吾は、新刊が出た時に読もうとすると、図書館で何百人も待つことになったりして、図書館の予約枠(一度に十冊までしか予約を入れられない)が勿体ないので、持ってる人に借りるか、文庫になるのを待って買うか、文庫になって、図書館でウェイティングなくなった頃に棚で見つけて借りてくるか、のどれかになった。そうやっ

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