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原田ひ香『人生オークション』(毎日読書メモ(369))

たまたま目についた原田ひ香を続けて読んでいる。今日は『人生オークション』(講談社、現在は講談社文庫)。「人生オークション」「あめよび」の2つの中編小説が収録されている。

「人生オークション」は、人生強制リセットとなった叔母りり子の身辺整理の手伝いをしに行くことになった瑞希(大学を出たが就活に失敗してバイト暮らし)が、叔母との関係性を再構築しながら、共に、叔母が不要となった荷物を次々とネットオークションで売っていく物語。2011年に発表された小説なので、まだメルカリはなく(メルカリの前身となる会社が設立されたのが2013年だ)、ヤフオクでバッグだの服だの靴だの着物だの食器だの売っていく。ネットオークションの作法みたいなものも書かれていて、それを瑞希とりり子と、突然迷い込んできたヒヨ子と3人で試行錯誤しながら習得していき、荷物であふれていたりり子の部屋が少しずつ片付いてくのと並行して、りり子が現在の状況に陥った経緯が少しずつ明かされ、また、瑞希自身の問題も、言語化され可視化されてくる。りり子と瑞希の会話の中に、それぞれの読書履歴が垣間見え、それが瑞希の心を溶かしていくところなどが実に心地よかった。

「あめよび」とは、ラジオ放送で、野球中継が雨で中止になった時に流される特別番組の俗称。眼鏡店で接客と検眼を行い、高級品の眼鏡をお客様にお勧めするのが実に上手な美子と、アルバイトをしながら、ラジオ番組に投稿するハガキ職人の輝男の、ド直球な恋愛小説。原田ひ香のこんなにストレートな恋愛小説は初めて読んだ。お互い、相手のことを大切に思っているのに、その先に進めないのは何故か。美子が混乱するのと一緒に読者も戸惑う。切ないが、しーんとした穏やかさに満たされた、不思議なエンディングで、一つため息をつき、ゆっくりと本を閉じる。

昨日も書いたが(ここ)、流れるような物語の中に不思議な位作者の気配が見えないのはこんなに早い時期からだったのだな、と認識する。ずっと退いた場所で、静かに物語の展開を見つめているのだろうか。

これまでに読んだ原田ひ香 : おっぱいマンション改修争議 ランチ酒 ランチ酒 おかわり日和 母親ウエスタン 彼女の家計簿

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