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原田ひ香『ランチ酒』(毎日読書メモ(310))

原田ひ香『ランチ酒』(祥伝社、現在は祥伝社文庫)を読んだ。3月に『ランチ酒 おかわり日和』を読んだときに(感想ここ)、あれ、この本は第1巻じゃないぞ、と読み始めてから気づき、でも丁寧なフォローが各章にあったので、そんなに違和感なく読み終えることは出来たのだが、やはり最初から読んでおきたいな、と思って取り掛かる。

主人公犬森祥子いぬもりしょうこの職業は「見守り屋」。夜、顧客の家等を訪れ、寝ずの番をする、という便利屋。家事や育児や介護などはしない。ただ、寝ないでそこにいるだけ。

と前回の感想文の時に書いたが、『ランチ酒』の最初から、祥子はもう見守り屋をやっていた。『ランチ酒 おかわり日和』では、祥子の置かれた境遇を割りとすぐに説明しながら物語が進んでいったが、第1巻では逆に、祥子はどういう生まれ育ちで、どういう事情で見守り屋になったのか、ということを、1冊かけて少しずつ解き明かしていく。逆にネタが割れた状態で読み始めたので、まるでミステリのようだね、と思ったり。そして、2巻目にも登場する何人かのクライアントとの最初の出会いが書かれていて、こういう前提があったから2巻ではこうなったのか、と納得出来たりもした。

どちらの本でも、料理が運ばれてきた時の祥子の嬉しさが、丁寧な料理の描写にありありと描かれていて、一口食べては酒を口に運ぶ快感が行間からほとばしり出るようである。
祥子の生活には屈託が多く、後悔したり哀しくなったりするシーンも多いのだが、夜通しの仕事を終え、帰宅して寝る前に食べるランチで、ひと時リフレッシュし、活力を得られているところがとても健全な印象。

見守り屋を依頼する人たちの孤独の音が響いてきて、震える思いがするが、祥子の健全な精神が、時に意識的に波を立て、時に静かに傾聴し、そっと気持ちを抱きしめ、長い目で見ると、救いになっている、と思わせてくれる、性善説的なエピソードの数々。小説に現われる肉丼、ラムチーズバーガー、回転寿司、焼き魚定食、刺身定食、牛タン、ソーセージ&クラウト、肉骨茶バクテー、サイコロステーキ、からあげ丼、アジフライ、フレンチのコース、海鮮丼、うな重、とんかつ茶漬け、オムライス、16種類の魅力的なランチと、祥子がそれぞれに合わせるため真剣に考えたお酒たち。きちんと食べて、それを美味しいと思えれば、明日も頑張れる。

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