- 運営しているクリエイター
2024年1月の記事一覧
既に存在した共生社会ーミニ読書感想『みんなが手話で話した島』(ノーラ・エレン・グロースさん)
文化医療人類学者ノーラ・エレン・グロースさんの『みんなが手話で話した島』(ハヤカワ文庫NF、2022年10月4日初版発行、佐野正信さん訳)が学びになりました。タイトル通り、聴覚障害があるか、健聴者かに関わらず、発声と手話を併用する島の話。あるべき目標に掲げられる「共生社会」が、既に実現していたという話です。
ただ、本書は「こうすれば共生社会が実現できる」という教本ではない。舞台となる米国のヴィン
「可能世界」を束ねた傑作連作短編集ーミニ読書感想『君が手にするはずだった黄金について』(小川哲さん)
小川哲さんの連作短編集『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社、2023年10月20日)が超絶に面白かったです。この作品についてずっと語っていたくなる。ここから書くことは全て仮説で、間違っているかもしれないけれど、それでも語りたいので書き残します。
本書は、「現代の承認欲求を描いた」という触れ込みをネットで見たことがあります。たしかに。メインテーマは、SNSの炎上や、才能、あるいは本物と偽
「分からないままでいる」という愛ーミニ読書感想『歌われなかった海賊へ』(逢坂冬馬さん)
逢坂冬馬さんの第二作長編『歌われなかった海賊へ』(早川書房、2023年10月18日初版発行)がこれまた傑作でした。第一長編『同志少女よ、敵を撃て』に比肩します。敗戦間際の1944年、ナチス統治下のドイツ。危ういながらもなお圧倒的な支配者に抗った少年少女グループ「エーデルヴァイス海賊団」が主人公です。それは、単色に塗りつぶされることに抗った若き命の輝きの物語です。
エーデルヴァイス海賊団というのは
正しい問いに向かうーミニ読書感想『THINK BIGGER』(シーナ・アイエンガーさん)
『選択の科学』で一世を風靡したシーナ・アイエンガーさんの最新邦訳『THINK BIGGER』(NewsPicksパブリッシング、櫻井祐子さん訳、2023年11月20日初版)が面白かったです。知的興奮に溢れている。そして勇気が湧く本です。ビジネスにおけるイノベーションの技法、いわば「イノベーションのイノベーション法」を提示していますが、発達障害の子を育てる親として学ぶことがたくさんありました。
大
「9割9分分からない」を楽しむ―ミニ読書感想『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(松岡正剛さん・津田一郎さん)
編集工学を探究する松岡正剛さんと、数学・物理学者の津田一郎さんの対談本『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(文春新書、2023年10月20日初版発行)が面白かったです。難解で、話しの9割9分は分からなかった自信はあるけれど、それでも、いや、だからこそ面白かったです。
生命を駆動させる「カルノー・サイクル」だとか、「デーモンとゴースト」だとか、出てくる単語、出てくる単語が分からない。津田さんの