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きらきら町のものがたり

18
架空の町『きらきら町』の住民たちがワーワー言います。
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#創作

抜錨

抜錨

私の声を聞いてください。私の声を聞いてください。私はきらきら町に住んでいる歌と詩が好きな18歳です。名前は高畑彩です。友達からは綾鷹と呼ばれています。私の声を聞いてください、私の声を聞いてください。私は初めてきらきら町商店街で路上ライブをします。何かが変われると思っています。私はあたらしい倫理を探し出さなければならないのですから。教室は嫌いです。嫌いでした。大学には滑り止めで合格しました。学部は親

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ラブ・アンド・クリティシズム

ラブ・アンド・クリティシズム

夏が来た。海の音はいっさいの否定を打ち消す。私は愛や、誠実という言葉の意味をかんがえながら、それでいてよこしまな考えにもふけってしまう。ニヤリ、と笑ってみる、トンビの声が高く聴こえる。

遠くでは世音香が波の近くで跳ねてあそんでいる。飛沫のように散っていく波、笑う世音香、彼女は気が付いているだろうか、すでに彼女は人ではない、鹿のように跳ねまわり、天使のように笑う彼女は。

すべてがみな静止した映画

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都美子と梨花

都美子と梨花

目に映る景色は、百億の名画にも勝るぜ。都美子はワンカップ片手にもう出来上がっています。梅雨に差し掛かるきらきら町の河川敷は、思うままの光をみせて、ほんとうに美しかったのです。

「なあ、魔法少女ちゃんもそう思うでしょ!? どんより雲も銀幕だと思えば美しいなあ!」

「やめてください、酔っ払い。私、こんなことに付き合ってる場合じゃないんですけど」

「ええ!? いいじゃんいいじゃん、世にも珍しい現代

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批評絶頂感

批評絶頂感

明らかな祈りせめて歌になるまで。美香は今日もオヒメサマごっこを続けている。授業で教科書を男子と共有している。美しいものは夢……、ならば生殖は悪?

俺は笹原っていうんだ、男で、大学生で、部活の所属はなし、そんでもって高校生の時に買ったレスポールを後生大事にもっている。尊敬するのは小林秀雄、池田晶子、懐疑しているのは若松英輔。俺は、あたらしい生存の倫理を探している。

明らかな祈りせめて歌になるまで

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約束

約束

失った衛星を探して二十四年、私はどうやらキラワレ者らしい。ということだけが分かった。捨てられてばっかりの人生だ、サヨナラすら言わせてもらいなんてね。口が悪いこと、小手先で隠してたら皮肉屋になっちゃった! 馬鹿らし、虚しいなあ。

失った衛星を探して二十五年、失った衛星ってなに? 分からないものばかり追いかけてたらバカになっちゃうよ? (うつくしいという言葉を禁句にしようよ)どこかでカラスの群れが死

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世音香

世音香

しん、と静まった朝に

海は潮を寄せていた。

わたしの舞が永遠に連なると信じて

おわらないうたの断片を歌おうと咽にちからを込めた。

(らー……)

わたしは力が抜けてしまう。現世からかろやかにはなれ

わたしは前世のともだちに会いに行こうとしている

腕をゆるやかに伸ばし、腕はひかれみちびかれ

わたしはついにきれいに、はっきょうする。

しん、と静まった朝に

海は春を撫でていった。

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芹川と輝波

芹川と輝波

輝波さん、俺は世界に子種を落とそうと思ってる。むろんあなたにも、風にも、木々にも、雨にも、雪にも、万葉集に描かれたすべての自然物にも。そして最後の一人に出会うまで、うつくしい女すべてに。俺はもうさみしくない、何編言ったってさびしくないんだ。本当だよ。

夏が来る。夏が来ると芹川は会いたくなる異性がいる。それはきらきら海浜公園の海だ。春の終わり頃の日に、始めて人気のない海に浸った。抱き寄せられて、射

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笹原秀雄の現代批評

笹原秀雄の現代批評

言葉にならないくるしみが、笹原を覆いました。なぜ、俺は俺でしかないのか、なぜ、俺は俺の人生しか歩めないのか。笹原は不思議で仕方がなかったし、つよい憤りすら感じていたのです。

笹原は午前2時の人通りも車通りも少なくなった道路で踊る。ゆるやかに身体をひらき、まわし、ときに低く高く唄いました。(俺が、俺がひとつの舞となれば、俺がもはや個人というものから抜け出してしまえば、俺が、他人の心をこのからだにそ

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ミシンの海遊び

ミシンの海遊び

ぜんらで海にダイブ。私はあたらしい思想を待っている。桜流しの雨がふって、もう季節は動き始めているんだね。私はどこに行こうか。誰も傷つかない国へいこう。私は梨花のようなヒーローにはなれなかった。

海はわたしを抱いてくれるから好き。だいすき。わたしを殺してくれるから好き。わたしを生かしてくれるから、すき。潮が、しおが、し、お、が。わたしの血をゆるやかにかたむける。うつくしいものは汚いところからはじま

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魔法少女梨花

魔法少女梨花

梨花は考えていました。この町を救うにはどうすればいいのかと。魔法のステッキが光っても、ビームが炸裂しても、根本的解決には程遠いと思ったからです。

空に浮く、ステッキをかざす。夕焼けのひかりがジュエルにあつまる。私は魔法少女、齢十四歳、大人びてしまった暴力で、だれを助けるの?

化物。街を襲撃する彼らは、一様に寂しい顔をしている。いたみを知った美しい顔だ。私はそれに値するうつくしい思想を持つか? 

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都美子の花見

都美子の花見

桜、桜、桜、夜の桜はやっぱりいいねえ、都美子はコンビニのシャケおにぎりをほおばりながら言いました。あとは酒だよな、酒。あとでワンカップ買うか。そう言いながら彼女はふらふらとあてもなく夜の河川敷を歩いていました。ライトアップはとってもきれいで、幽玄のようだったのです。

都美子はきらきら町ではめずらしい巫女でした。それゆえにどこかで舞おうと思っていたのですが、ふさわしい場所がなかったのです。「あーあ

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前時代風

前時代風

「愛がすべて、すべては愛」そういいながら、歌いながら踊りながらわらいながら、青年はきれいに狂っていった。ほっそりした胸元には柘榴の刺青をして。

青年は自らの感性が、もはや時代には適合しないのだと知っていた。出会う女はみなうつくしかった、それがゆえにかなしかった。「滅びることのない倫理をさがしに行こう」彼はゆうれいのように河川敷を歩くことがあった、風がささやいていた。「遠くに行こう、とおくにいこう

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きらきら国の美香

きらきら国の美香

わたしの前世はおひめさまでした。おとぎばなしのはじまりは、春の嵐のようなさっそうとした轟音が鳴る。うつくしいものをさがしに行こう、そういって馬に乗って駆けて行った昔の日はかすか。わたしはいまはどーしようもない女子大生です。

ひとを欺かないように生きようと思っても、それがとっても難しいということに気が付くのにそう時間はかかりませんでした。傷口をひらくようなとわず語り……わたしは毎夜、ブログを更新す

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片恋

片恋

三笠亮が自転車で空を駆ける。時速70キロメートル、うつくしくもない旅路。「揺らぐことのないものをさがしに行こう」果てしのない空には星が、星の中には過去にたちきえた意思が燃えていた。うわぁぁあああん、うわぁぁああぁぁあん。汽笛のように鳴るこの音は号哭だ。「うつくしいものをさがしに行こう」三笠はニッと意地悪く笑う。

さて、眼下には星々を散らしたような夜の街があります。あそこにいるのは巫女の都美子。今

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