世音香
しん、と静まった朝に
海は潮を寄せていた。
わたしの舞が永遠に連なると信じて
おわらないうたの断片を歌おうと咽にちからを込めた。
(らー……)
わたしは力が抜けてしまう。現世からかろやかにはなれ
わたしは前世のともだちに会いに行こうとしている
腕をゆるやかに伸ばし、腕はひかれみちびかれ
わたしはついにきれいに、はっきょうする。
しん、と静まった朝に
海は春を撫でていった。
わたしは快い感覚につつまれたと思ったら
急に涙があふれだしてしまう。
(これはなに、わたしは地の底からいかすものはなに)
(これはなに、わたしを過去世とむすびつけるものはなに)
(これはなに、わたしを未来へと期待させるものはなに)
(これはなに、わたしの思惟をかぜに光らせるものはなに)
(なに……?)
しん、静まった朝に、世音香は哭きながらあしを鹿踊りのように跳ね上げた。
それ自体が祈りに通じるものであると信じ切っていた、彼女にとっては
当たり前の倫理だった。おわらないうたを歌おう
おわらない歌をうたおう。
おわらない浪が、浜辺に酷く打ち寄せた
おわらない浪が、彼女の瞳へと高くたかく打ち寄せる。
なんどでも。
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