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2024年の僕が僕であるために

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感想ノート。ネタバレ注意で。 時間がないとか、忙しいとか、追われてばかりの昨年は、生きた心地がしなかった。 壊れかけていた。 2024年は、生きたいと感じる自分を追い求める。
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私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

森美術館開館20周年記念展。
半年開催していて今週最後にぎりぎり飛び込んだ。

コンセプトも展示内容も見応えはあったが、どうもすっきりしない。
自分なりに検証したい。

社会課題に正面から取り組むモダンアートは、同時代性で疏まられる。ニュースで取り上げられ、一瞬で消えていく情報消費。アートは遺すことに意義がある。

人という生物が何を求め、自我に何ができるのか。生物学なのか人文学なのか。

歩いて

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『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

ウッディ・アレン監督・脚本。なんと88歳で、久しぶりのヨーロッパロケ、それも風光明媚なスペイン北部バスク地方のサン・セバスチャン。映画祭を舞台に繰り広げるロマンティック・コメディの王道。

華やかな映画業界でプレス・エージェントの妻、ドストエフスキーに憧れ小説家を目指すインテリ爺やの主人公。それぞれの恋愛模様も微笑ましいが、それはそれ。いつもウッディ・アレンが描く主人公は、まさにウッディ・アレンそ

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『PERFECT DAYS』

『PERFECT DAYS』

期待しないでいたのがよかった。
ヴィム・ヴェンダース監督・脚本、髙崎卓馬脚本。
土曜の昼過ぎ、映画鑑賞の後、クラフトビールで妻と乾杯した。
変わらない、ヴィム・ヴェンダース。『ベルリン・天使の詩』でカンヌ監督賞を受賞したのが、1987年。彼が東京を舞台に撮るとこんな映画になる、そんな映画だった。
同じような毎日を、優しい視線で見つめている。冷たい都会で生きるのは厳しいようで、どこか楽しそうだ。早朝

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『灯台からの響き』

『灯台からの響き』

久々の宮本輝は、『田園発港行き自転車』(2018年集英社文庫)以来だ。会心の長編だと思う。76歳とは思えない、丁寧で優しい筆致も健在だった。

突然妻に先立たれて生きる気力を失っていた62歳の主人公が、愛蔵書に挟んである妻宛ての葉書を見つけたところから物語が始まる。灯台を巡る旅に出て、自分の人生を見つめ直す。妻、家族や友人との関係に光を灯し、自分を再生させる。板橋の商店街に佇む愚直なラーメン屋から

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『福田村事件』

『福田村事件』

関東大震災から100年。

歴史の闇に葬られた事件を、ドキュメンタリーの名手、森達也監督が劇映画化、とか言われると、急に観たくなくなる。
もちろん、観られる映画館は限られる中、よくぞ撮った、とは思うのだが。

さて、観終わって、やはり観なくてもよかった、少なくとも僕は、だ。
マイノリティの存在、差別を受ける人の気持ちを知らない多くの人に、観てほしい映画なのだろう。それが僕には、ステレオタイプに感じ

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『枯れ葉』

『枯れ葉』

アキ・カウリスマキ監督の復帰作。
ミニマルで美しい。繊細で優しい映画。

人は愚かで不器用で、冷たいようでいて、実は温かい心を隠し持つ。悲惨な世界、厳しい社会の中で、生きるために。密やかに映画や音楽が、それを解放してくれる。隣の人と手を繋ぎたくなる。
そう、ただ生きるために、である。何のために生きるか、ではないのだ。

カウリスマキ監督のメッセージが最高。以上、である。

「取るに足らないバイオレ

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『ゴジラ−1.0』

『ゴジラ−1.0』

『シン・ゴジラ』は面白かったし、『永遠の0』も面白かったと思う。それでも山崎貴監督はVFXを駆使して、あのシンゴジをどう超えようとするのか、半信半疑だった。海外でも高評価、モノクロ版が公開、轟音上映体験したい、という条件が揃ってきて、ようやく劇場で観た。僕は僕なりの感想を遺したい。

ゴジラにはいろんな楽しみ方があるのだということを、改めて痛感させられた。そして、他の怪獣を出さなくても、ゴジラと人

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『浴室』

『浴室』

1985年、パリで発表された作家J.P.トゥーサンのデビュー作。日本では1990年に翻訳された。

読み終えてまず感じたのが、僕が初めて村上春樹を読んだ時の感覚と似ている、ということだった。僕が村上春樹を初めて手にしたのは17歳、『ノルウェイの森』。1987年のことである。

小説のすべてに、パスカルの影響が覗える。「些細な事が我々を慰めるのは、些細な事が我々を苦しめるからだ」そんな日常を描いてい

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『ツァラトゥストラはかく語りき』

『ツァラトゥストラはかく語りき』

ニーチェの本ではなく、R.シュトラウスが1896年に作曲した交響詩。
キューブリック監督『2001年宇宙の旅』(1968年)に起用された冒頭は、あまりにも有名だ。

平日の仕事終わりに、サントリーホールで疲れを癒やしたいと思っていた。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲がある。読響だ。いい組み合わせだと思った。指揮者もソリストも知らない外国人だったのも、先入観なく聴けそうだ。
カラヤン広場の奥にあ

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『ウィッシュ』

『ウィッシュ』

ディズニー100周年記念作品。

僕は子どもの頃から童話が好きで、おかげで本の虫になったと思っている。ディズニーは、お姫様好きではないが、その世界観が好きで、でも当時は男のくせにと言われそうで、大人になってもあまり人に言えなかった。温泉も俳句もそう。若いくせにと言われたものだ。音楽や絵画が好きだと言うと、高尚だね、暇だね、金持ちだね、と嫌味を言われた。今でも言われる。本人は悪気ないけど、みんな僕か

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『終わらない週末』

『終わらない週末』

あまり好きではなかったNetflixで、初めてオリジナル映画を観た。映画館で公開されない映画(2時間ドラマ?)を観たのも初めてだと思う。

オバマ元大統領夫妻が製作に携わった『終わらない週末(原題 Leave the World Behind)』が、アメリカの崩壊を描いている。ノスタルジックな演出で、ヒッチコック好きなら、ぜひお勧めしておきたい。

僕が観たきっかけは、個人的に感慨深い『ベン・イズ

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