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DXとマーケティングその32:DXでのデジタル化戦略とマーケティング戦略の役割

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係を考えてくシリーズの32回目です。

今回も、前回から引き続き、DX関連書籍の一つである『DXナビゲーター』をもとに、マーケティングとの関係を分析していきます。

今回は、『DXナビゲーター』で述べられているDXにおける3つの戦略の1つ目を詳しく見ていき、その中にマーケティング戦略の役割が言及されているかどうかを見ていきます。

3つの戦略とは、以下の3つのことです。
1.既存の中核事業のプロセスをデジタル化する戦略
2.新規のデジタル事業を立ち上げるための戦略
3.この2つの戦略を連携させる包括的なデジタル戦略

今回の記事では、1つ目を扱います。

また、マーケティング戦略とは、市場細分化(セグメンテーション)、ターゲティング、差別化、ポジショニングの4つを決めることです。

つまり、今回の記事では、既存の中核事業のプロセスをデジタル化する戦略において、マーケティング戦略の役割をどのように捉えられるのかどうかを見ていきます。

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
第15回はこちら。DXと事業の定義がどのように関係するのかをみました。
第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。
第18回はこちら。DXの背景と「顧客は誰か」との関係を整理しました。
第19回はこちら。DXの背景と「顧客はどこにいるか」との関係を整理しました。
第20回はこちら。DXの背景と「顧客は何を買うのか」との関係を整理しました。

デザインドフォー・デジタル篇
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第21回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングの関係を指摘しました。
第22回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでの新製品開発との関係を整理しました。
第23回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトとの関係を整理しました。
第24回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトチームとの関係を整理しました。
第25回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムとの関係を整理しました。
第26回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの情報ニーズの評価との関係を整理しました。
第27回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの社内データと社外データとの関係を整理しました。
第28回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングにおけるマーケティング情報システムでのマーケティング・リサーチとの関係を整理しました。
第29回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングにおけるマーケティング情報システムでの情報の分析と利用との関係を整理しました。

DXナビゲーター篇
第30回はこちら。『DXナビゲーター』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第31回はこちら。DX戦略とマーケティング戦略との関係をみました。

DXナビゲーターのおさらい

『DXナビゲーター』でのDXとは、以下の2つを同時に並行して行うことであるとされます。
1.既存の中核事業のデジタル化
2.新たなデジタル事業の創出(立ち上げ)

これまでの記事で見たように次の図で整理しました。

同時に行う理由は、同書によると、それが成功法則であり、互いの事業をうまく連携させることで相乗効果が生まれるためだと述べられています。

他の概念として、『DXナビゲーター』では、これら2つで取り組む事業をそれぞれ、S1曲線とS2曲線として次の図で示されています(p.21より)。

『DXナビゲーター』では、S1曲線の事業を維持しながら、S2曲線の新たな事業を立ち上げる、さらには2つの曲線の相互作用を管理する方法が解説されています。

そして『DXナビゲーター』では、このDXの取り組みを説明する枠組みとして、Why、What、How、Whereという4つの視点での整理を行っています。
・Why:なぜ行動するのか?
・What:何をするのか?
・How:どのように実現するのか?
・Where:どこで結果を見るか?

これまでの記事では、4の視点も含めて次の図のように整理しました。

図では行動は各2つしかありませんが、実際は目的を達成に向けて何度でも繰り返されます。

前回の記事では、Whyに関して少しだけ紹介しました。

今回の記事の記事の範囲は、Whatに関わる部分となります。

前回のおさらい

前回は、「戦略」という言葉を中心に、DXでの戦略とマーケティング戦略の概要を見ながら、これらの戦略と関係のある要素を特定しました。そして、DX領域とマーケティング領域の関係を分析するにあたり、その分析の範囲を設定しました。

また、マーケティング戦略とDXでの戦略がどのように関係する可能性があるのかを考察しました。結論としては、マーケティング戦略は、DXでの戦略の中、あるいは、それ以降の活動として存在するだろうということを考察しました。

今回の記事では、中核事業の戦略策定のプロセスにおいて、マーケティング戦略が位置づけられるのかを考察していきます。

DXでの戦略

『DXナビゲーター』でwhatで書かれていたものを整理したものが以下の図です。出現する要素やプロセスは、まだ一部だけです。

whatでは、以下の3つの戦略が説明されています。
1.既存の中核事業のプロセスをデジタル化する戦略(S1曲線の戦略)
2.新規のデジタル事業を立ち上げるための戦略(S2曲線の戦略)
3.この2つの戦略を連携させる包括的なデジタル戦略

今回の記事では、1つ目の戦略を見ていきます。見たあとに、マーケティング戦略との関わり合いがあるのかを考察します。

中核事業のデジタル化の戦略

中核事業では、既存の戦略を見直し、必要に応じて修正を行うとされています。戦略における目的として、以下の2つがあげられています。
目的1.デジタル技術を使用して既存事業の効率化と競争力向上をかなえること
目的2.中核事業のデジタル面の強化を戦略的目標とすること

ここで、デジタル技術の具体例は戦略の箇所には書かれていませんが参考として別の章で挙げられているデジタル技術を挙げておきます。
・モバイルインターネット
・知識労働の自動化
・IoT
・クラウドとエッジコンピューティング
・データ分析とAI

「知識労働の自動化」に関しては、技術なのかと疑問かもしれません。人工知能、機械学習、ユーザーインターフェース、ビッグデータ技術の発展により自動化が可能になったとしています。

さて、目的の1つ目において、効率化の進め方としては、バリューチェーン全体を書き出して、最大の課題や好機や眠っている部分を特定するという、枠組みに沿ったアプローチが必要だとされています。『DXナビゲーター』の取材によると、まずは部署ごとに主要な課題を挙げさせ、改善効果の大きいものから優先順位をつけたという企業が多かったとのことです。

上記のアプローチの利点として2つが挙げられています。
・改善で生まれた資金的な余力をS2曲線の構築など、別の投資に回せること
・将来その取り組みを顧客に適用して販売すると見込んだ、初期検証の機会として利用できること。例としては、予防保全ソリューションが挙げられています。

目的の2つ目を行う理由としては、デジタル技術とツールを使用して、主要製品やサービスの顧客体験の質を大きく向上できるためだとされています。

ただ、目的の2つ目は、事例の話はありますが具体的な話が書かれていないのため、どのようなサービスが、どのような技術を用いて、どのようにして顧客体験を向上できたのかはわかりません。

1つ目の事例は、基幹プロセスの効率化に加えてデジタル化したコアプロセスが、新しい製品とサービスの基盤になったというものです。

2つ目の事例は、デジタル技術とツールを活用した顧客本位と顧客重視の推進により、中核事業に新たな成長の可能性をもたらしたというものです。

マーケティング戦略

マーケティング戦略の考え方は、前回の記事で参考にしたように『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』の書籍をもとにしています。

マーケティング戦略とその設計は、同書のいうマーケティングプロセスのステップ2に該当します。

同書によれば、このマーケティング戦略は、「顧客主導型マーケティング戦略」と呼ばれます。

顧客主導型マーケティング戦略の設計では、下記の図に示すように、4つのことを決めます。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』より

決めることは、「対象とする顧客を選定すること」、「提案する価値を決定すること」の2つに分類されます。

<対象とする顧客の選定>
・市場細分化:
市場を小さなセグメントに分割する。
・ターゲティング:参入するセグメントを選定する。
<価値提案の決定>
・差別化:優れた顧客価値を創造するために市場提供物を差別化する。
・ポジショニング:ターゲット顧客のマインド内における市場提供物の位置を決める

ここで市場提供物とは、「ニーズやウォンツを満たすために提供される製品、サービス、情報、経験の組み合わせ」だとされます。

4つをそれぞれをもう少し詳しく見ていきます。

まず市場細分化です。

市場には多様な顧客、製品、そしてニーズがある。マーケターの仕事は、どのセグメントが自社に最高の機会を提供してくれるのか判定することだ。顧客を地理、デモグラフィックス、心理、行動といった要因に基づいてグループ分けすれば、それぞれに異なった対応をとることができる。市場を異なるニーズや個性、行動を持ち、別個の製品やマーケティング・プログラムを必要とする購買者グループに分割するこのプロセスを市場細部化と呼ぶ。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』,コトラーら, p.47

次にターゲティングです。

市場セグメントが明確になれば、そのうちの一つ、もしくは複数のセグメントへの参入が可能になる。ターゲティングとは、各市場セグメントの魅力を評価し、参入対象とする1つ、もしくは複数のセグメントを選定することである。標的として選ぶべき対象は、収益を上げつつ最大の顧客価値を生み出し、それを長期にわたって持続できるセグメントである。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』,コトラーら, p.48

次に差別化です。

参入する市場セグメントを決定したら、次に、標的とするセグメントへの製品をいかに差別化するか、そのセグメント内でどのようなポジションを占めようとするのかを決めなくてはならない。(後略)

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』,コトラーら, p.49

少し明確でないかもしれません。用語の定義では「優れた顧客価値を創造するために、市場提供物を文字通り差別化し、他者との違いを明確化すること」となっています。差別化できる箇所としては、製品の特徴やデザイン、付随するサービスなど様々だとされます。

最後にポジショニングです。

ポジショニングとは、競合製品との相対関係において、標的とする顧客のマインド内で自社製品が明確、特殊かつ望ましい位置を占めるようにすることである。(後略)

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』,コトラーら, p.49

ポジショニングの意味合いの説明として、自動車業界が例に挙げられています。日産のマーチとホンダのフィットは大衆車、レクサスとメルセデス・ベンツとBMWは高級車、ポルシェは高性能車にポジショニングされる、とのことです。

ここまでで、4つのことを決める内容の概要を見てきました。

次節では、ひとまず、ここまでの内容をもとに、DXでのデジタル化戦略と、これら4つを行うマーケティング戦略との関係を考察します。

デジタル化の戦略とマーケティング戦略

既存の中核事業のデジタル化の戦略の目的は、以下でした。
目的1.デジタル技術を使用して既存事業の効率化と競争力向上をかなえること
目的2.中核事業のデジタル面の強化を戦略的目標とすること

各目的を実現するための行動において、マーケティング戦略がどのように関わるのかを見ていきます。

まず目的の1つ目です。マーケティング戦略は関係がないと思われます。デジタル技術を用いた効率化のために、マーケティング戦略は行わないと思われるためです。マーケティング戦略で決めることの大枠は以下の2つでした。
・対象とする顧客の選定(市場細分化とターゲティング)
・提案する価値の決定(差別化とポジショニング)
この2つを行うことが何らかの業務の効率化となるわけでないと考えられます。

ただし、この2つを行うこと自体を業務として捉え、この業務を、デジタル技術を使った効率化の対象とすることはあるかもしれません。

目的の2つ目の考察は、少し長くなりそうでしたので、次回の記事で議論したいと思います。

まとめ

今回の記事では、『DXナビゲーター』での3つの戦略のうちの1つ目と、マーケティング戦略との関係を考察しました。

戦略の1つ目とは、既存の中核事業のデジタル化を行うための戦略です。目的は2つあり、1つ目は、デジタル技術やツールを使うことで、業務プロセスを効率化することです。2つ目は、デジタル技術やツールを使うことで、主要な製品やサービスのデジタル面での強化を行うことで顧客体験の向上を狙います。

今回はこの戦略の1つ目とマーケティング戦略との関係を考察しました。

マーケティング戦略では、「対象とする顧客の選定(市場細分化とターゲティング)」と、「顧客に提供する価値(差別化とポジショニング)」の決定を行います。

この決定自体は、業務プロセスの効率化と結びつくものではないため、この1つ目の目的においては、DX戦略とマーケティング戦略とは関係がなさそうだと結論づけました。

次回は、中核事業の戦略の目的の2つ目がマーケティング戦略とどのように関わり合う可能性があるのかを見ていきます。続きはこちら

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
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第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
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第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
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第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。

DXと経営篇
第14回はこちら。DXと経営との関係付けの準備を行いました。
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第16回はこちら。DXと「われわれの事業は何になるか」と「われわれの事業は何であるべきか」がどのように関係するのかをみました。
第17回はこちら。DXの背景を整理しました。
第18回はこちら。DXの背景と「顧客は誰か」との関係を整理しました。
第19回はこちら。DXの背景と「顧客はどこにいるか」との関係を整理しました。
第20回はこちら。DXの背景と「顧客は何を買うのか」との関係を整理しました。

デザインドフォー・デジタル篇
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第21回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングの関係を指摘しました。
第22回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでの新製品開発との関係を整理しました。
第23回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトとの関係を整理しました。
第24回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのカスタマーインサイトチームとの関係を整理しました。
第25回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムとの関係を整理しました。
第26回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの情報ニーズの評価との関係を整理しました。
第27回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングでのマーケティング情報システムでの社内データと社外データとの関係を整理しました。
第28回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングにおけるマーケティング情報システムでのマーケティング・リサーチとの関係を整理しました。
第29回はこちら。シェアード・カスタマーインサイトとマーケティングにおけるマーケティング情報システムでの情報の分析と利用との関係を整理しました。

DXナビゲーター篇
第30回はこちら。『DXナビゲーター』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。
第31回はこちら。DX戦略とマーケティング戦略との関係をみました。

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