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詩など

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自作の詩,詩のようなことばをまとめています。
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#眠れない夜に

【詩】月めくり、月めぐり

【詩】月めくり、月めぐり

月めくり、夢をかけ替える朝
通う道は明るい
来月、次の月こそと
願って、ページを はらり

月めくり、今を過去にする夜
辿り着いた部屋は暗い
今月、ようやく終われたと
うそぶいて、ため息 くたり

月めぐり、満ち欠けやがて名月
黄金色の夜明けは近い
満月、見送って手を振ると
滴って 月光 とろり

・・・・・
先日は明るい月夜でしたね。
小牧幸助さんの #シロクマ文芸部  の企画「月めくり」から書き

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【詩】うつろう

【詩】うつろう

首元まで詰まっていた 夏が
つるん と抜けて
行ってしまったので

わたしのからだは
空っぽになって
やたら 風を通すようになった

行きつ戻りつしていても
行ってしまったら 戻ってこない

夏は 脱いでしまったのだ
わたしという 皮を

うつろう季節はいつも
すぐ 肌の下にある

*******************
今年の残暑は厳しかったなぁと思いながら書きました。ようやくの秋ですね。
素敵

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【詩】おもたい

【詩】おもたい

長患いに瘦せ細った祖父は、死ぬ前
風呂に入れれば、その湯が
服を着せれば、その衣が
おもたい、――おもたい、と
呻くように呟いていた
五体満足に生きていたら
気にすることもないものたちの、重みを

亡くなった後
故人の服を捨てようと
集めてまとめて袋に入れれば
一枚二枚では感じなかった
衣の重みがずっしりと
袋を持ち上げる指に
引きちぎれんばかりに、食い込む

いつだって身軽でいたい
けれど人生は

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【詩】とどけもの【掌編】

【詩】とどけもの【掌編】

しずかな日曜日の午後
夕方に差し掛かるころ
インターフォンが鳴る

届けられたのは
化粧箱に入った
ひとつかみの 心

とどけもの、受け取りました。早速、風にさらして水に活けて、日の当たる窓辺に、飾りました。獣を飼うのも植物を育てるのも全く得意ではないのですが、せっかくとどけて下さったから、このまましばしお預かりします。
―――――――季節の変わり目どうぞご自愛を

受領の報せは書いたものの
宛先

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【詩】追伸、あなた様へ

【詩】追伸、あなた様へ

夜中に手紙を書くときは、
いつだって最後に
追伸、
と書きつけてしまう

言い残したことがあるのです
忘れていたことがあるのです
書きたくても書けなかった
真実を最後に、少しばかり

追伸、
あの仕事は片づけておきました
あの件はなかなか終わりません
あの子は相変わらず元気ですよ
あの日のことは忘れてください

追伸、
あいしていました
あいのようなものでした
あいしています
あいのようなものだと

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【詩】それから

【詩】それから

そう、あの子は戦いに赴き
連絡が途絶えて久しいの
過去と未来は繋がらない
羅針盤は今を指さない

そびえ立つ現実
連日積み重なる
哀しみから顔を上げて
ラジオに耳を澄ます

ソーダ水に
レモンの月を添えて
飾る窓辺に 訪れる夜明け
来年、戦争は終わるでしょうか

………………

「それから」をテーマに作ってみた小さな詩です。各行が「そ」「れ」「か」「ら」で始まっています。

素敵なイラストをお借り

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【詩】プリズム

【詩】プリズム

呼びかけられたので
振り向いたのですが

そこには
いつか投げ捨てたグラスの
破片が宿した薄いプリズム

言葉になりきれなかった
ひかりたちは
年月に透けながら
わたしの肩のあたりを
時折ざわめかせてくる

眩しい夏の手前で

呼びかけられたので
振り向いたのです、が

そこには

【散文詩】さらさら【掌編】

【散文詩】さらさら【掌編】

生まれ変わったら、遠い砂の国で、永い時を生きる砂像になりましょう。

心中する前にそう言ったのに僕だけが生き残ってしまった。二人で生きた国を離れ、僕は異国で砂像を作る仕事を始めた。さらさら、さらさら。少しずつ崩れる永遠を作り続ける。あなたが生まれ、あなたが笑う、あなたが壊れ、あなたがいなくなる。さらさら、さらさら。面影が少しずつ、砂に紛れてゆく。

風に吹かれ時を見失ったら、異国の砂丘になりましょ

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【散文詩】蝶【掌編】

【散文詩】蝶【掌編】

貴方がわたしの指に結んでくれたのは、蝶の形をした願いだった。小さな宝石のような模様を抱いて、蝶はわたしの指に棲みついた。流れる甘い血は吸い上げられ、指は鱗粉に塗れてかさついた。蝶はそれでも肥えない。痩せた願いだけが、貴方がいなくなった後も残り続けた。

いつまでここにいるつもりなの。わたしは蝶の薄い翅を摘んで訊いてみる。さぁねぇ、と応えが返る。指は歳をとる。皺の間深くまで鱗粉が入り込んで、皮膚と同

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