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武田敦
2023年12月31日 07:00
無数のデビル・ハンター達が、折り重なって飛ぶ蝶の群れのように、SSIPのパトロール・エアカーを覆い尽くした―― エアカーがその重みに耐えかねたように車体の平衡を崩して墜落していく! 「シャルルゥーー!」 わたしは、がばと上半身を起こし、後頭部をしたたかに洞窟の壁に打ち付けた。 「……痛い……夢?…………」 洞窟の入り口からは、燦々と朝の光が差し込んでいる。……もしかしたら、昼の光か
2023年12月30日 07:00
「シャルルゥー!」 地上にいるわたしは、喉よ裂けよとばかりに叫んでいた。 SSIPのパトロール・エアカーの後部座席から、必死にわたしの方を振り返って、何事か絶叫しているシャルルのひずんだ顔が見える。 SSIPの連中は,何故かわたしに気付かずにシャルルだけを連行しようとしている。恐ろしい拷問を加えるつもりなのだ……シャルルとて人の子、想像を超えた痛みには耐えられるまい。……秘密を守る為に、自
2023年12月29日 07:00
わたしは、荒い息を肩でつきながら、目を見開いて、洞窟を凝視した。……さすがに、入っていいものやら…… …………こくり、こくり。これはまずい。立ったまま寝てしまうなんて……何かを持続的に考える余力はもう残っていない…… 「もう、どうなってもいいわ!寝させてもらいます」 わたしは、猪突猛進、洞窟へと足を踏み入れた。 洞窟は、今来た道と同じように、くねりながら、上へ上へと続いている。いくらも行
2023年12月28日 07:00
今までのことを考えれば、この道は、エアカー誘導路だ!わたしは、登りであるにもかかわらず、快調に飛ばして距離を稼いだ。どんどん山の奥に分け入っていく感じ……暗視ゴーグル越しにも、周囲が荘重な趣のある巨木の森に変わってきたのが分かった。……砂漠地帯から、突然豊かな水の存在をうかがわせる植生への切り替わり…… 心地よい疲労がもたらす陶酔の中、わたしは、何の根拠もなく、この先起こることへの期待感を感じ
2023年12月27日 07:00
「鉱山のことばかり考えてたけれど、林道かしら……」 わたしは、独り言をいうことに全く抵抗を感じなくなっていた。不思議なことに、怖がりのわたしが、この闇夜に荒野を一人で横断しているというのに、お化けや野獣のことは全く念頭になかった……疲労から、警戒心が麻痺していた、とも言えるし、変に神経質になってなかったから、どんどん先へ進めたのだ、とも言える。 「ままよ!」 わたしは、謎の九十九折に足を踏
2023年12月26日 07:00
「さて、これからどうする?」 疲れていたためか、思わず独り言が出た。 どうするもこうするも、もう寝る場所を見付けないと…… 洞窟はないかしら?なんて、そんなうまくいくは・ず・は―― 支脈のうっそうとした森を暗視ゴーグルで左右に掃いていたわたしの視界に、道?……そこだけ木の生えてない切れ目が飛び込んできた。 思わず近付いてみる。 幅3標準メートル程に踏み固められた道が、巨木を迂回するよ
2023年12月25日 07:00
一息ついたわたしは、改めて暗視ゴーグルをかけ、行く手を睨み据えた。 聳え立つ連山の、ちょうどコルに当たる部分から突き出た形の支脈は、一本一本の木が見分けられる程で、もう眼前と言っても良かったが、あいにくゴツゴツの岩場を突っ切って行かなくてはならない……怪我をしないようにしなくては……他に手はなさそうだ…… これは相当体力を消耗するなと覚悟したわたしは、ここで、乾パンに干し肉、野菜の缶詰といっ
2023年12月24日 07:00
(シャルル……入れてくれたのね。このことあるを予測して……) 本当によく気が回る、頼もしい。 わたしの口角に自然と笑みが浮かんだ。それは、気持ちがまたポジティブになったから、そして、もう、シャルルがわたしを一人で行かせようとしたことは、確実だから。わたしは、その時、そばにいなくてもシャルルに見守られていることを、肌で感じていた。 わたしが、湖の、不時着地から見て対岸にあたる地点に着いた
2023年12月23日 07:00
わたしは、立ち止まってしまった。 (大問題だわ。わたし、何て馬鹿なの……) 取りあえず、小休止。 目敏く、椅子になりそうな岩を見付けて、ドカッと腰を下ろした。 立ち止まると、10メートル程の波打ち際から、静かな波の音が聞こえだす…… 荷物を順番に全部おろして、水を一杯いただく…… 「ふぅー……」 大きなため息。 人間の性なのだろう、無駄と分かってて、自分のバッグの中を検めるわたし
2023年12月22日 07:00
鉱山、そこで働く人々、その家族…… 山の中の鉱山の町…… 漠然と思いを巡らしているうちに、鉱山にしろ何にしろ、この漠とした風景の中、人の住む土地に行き会えるなんて、まるで富籤に当たるようなものだと思えてきた。……テンションが下がるとまずいから、このことはもう考えない…… (陽が落ちてきたわ……) まだ、湖の向こう岸まで、3分の1は残しているというのに。 思わず足を速めたわたしは、たちま
2023年12月21日 07:00
わたしの行く手を見る目に鋭い光が宿った。さっきまでと同じ景色が違って見える――それによって征服されてしまいそうな自然ではなく、自分が制覇していく自然…… まずは、生きのびること。そして、ともかく、誰かに出会うことを考えなくては何も始まらない。 (いくらなんでも、まったくの無人ではないわよね……) 「アンコーナの人々が内陸部へ行く理由は何か――それは、端的に言って、観光・林業・鉱山……」
2023年12月20日 07:00
心地よい風が背後から吹いており、わたしは、ひたすら持久戦の状態に入っていた。草本・木本含めてほとんど植生のない風景が、寂寥感を掻き立てる…… (例えは悪いけれど、これは、ゲームだわ) 今、わたしは、シャルルと別れ、一人の吟遊詩人として荒野を旅している―― 第三者が見たとき、わたしはどう見えるのか? ――なぜ、こんな無人の地を旅しているの? ――自発的に? ――それとも、何かの事故に巻
2023年12月19日 07:00
結論――SSIPの制帽・ロング・コート姿のわたしは、私物の肩掛け鞄とギター・バッグをはすかいに首にかけ、背中には水の入ったバッグをしょって、荒野へと一歩を踏み出す! わたしのいた、岩場と砂地がパッチワークのようになった地帯を抜けると、湖岸はずっと先まで障害物のない砂浜ないし砂利浜だ。地面が柔らかくて歩きにくいのでは、という懸念は杞憂で、波打ち際から一定の距離をとって歩く分には、土は固く締ま
2023年12月18日 07:00
ふと、SSIPの制帽に目が行った。……なかなか粋じゃない……。もしかしたら、デラ殿下の軍服姿が念頭にあったのかもしれない。かぶってみる。ちょっとゆるい……目深だが、まあいいか。 わたしは、自分自身の肩掛け鞄、そして、ギターのことを考えた。何でもかんでもは、持って行けない。また、あまりに身動きがしずらくては、目的地に辿り着く時間にまともに響いてくる。バランスが大切だ…… 食糧の入った背負い鞄・