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武田敦
2024年2月27日 07:00
エリザが、長い首を大きく曲げて、わたしの耳元、顔のすぐそばに、自分の大きな顔、大きな右目を寄せてきた。彼女の肌のぬくもりが感じられる…… 『妙ね。これでお別れだと思ってたんだけど。私、デビルの背に乗って旅する吟遊詩人、風のデイテって絵柄の一部になっちゃったのかしら』 わたしは、幾分すまなそうな目で彼女を見上げていたと思う。 エリザが、大きな目をぱちくりさせた――ウインク⁈ 『安心
2024年2月26日 07:00
「ブラボー!」 「風のデイテ!」 「エリザ嬢!」 そして、この荒野の真っただ中に、わたしの名を連呼する大合唱が沸き上がった―― デイテ!デイテ!デイテ!…… デイテ!デイテ!…… ……
2024年2月25日 07:00
わたしは、ギターでメイン・テーマをひとしきり奏であげ、最後の九行をもう一度高らかに、そして次第にスローになるテンポで歌い上げた。 静寂―― 聞こえるのは、寂れた鉱山街を吹き抜けていく風の音と、メトロノームのように物憂い掘削機械の音だけ…… インパクトが強すぎた時の沈黙は、突然終わることが多い。 この時もそうだった。 一人の男が、古ぼけたハンチングを空高く放り上げた―― 「こいつは凄い
2024年2月24日 07:00
2024年2月23日 07:00
2024年2月22日 07:00
2024年2月21日 07:00
わたしは、自身の稀有な体験を物語りながら、それが自然と叙事詩となっていくのを意識した。物語は、起承転結のループを繰り返し、一つの『結』が、次の『起』になる。物語のボルテージが、どんどん上がって、クライマックスへと……。そして、本当に、『風のデイテ』、デビルの背に乗って旅する吟遊詩人が、誕生した――
2024年2月20日 07:00
2024年2月19日 07:00
2024年2月18日 07:00
2024年2月17日 07:00
2024年2月16日 07:00
2024年2月15日 07:00
強く、不思議なメロディーを数小節奏でて―― 一転、静かに、リズミカルに、エスニックなテーマを流していく……エリザの背に乗って、大空を勇躍するイメージ……早く、ゆったり……強く、小さく…… わたしは、自信のあるギターで存分に聴衆を引き付ける……これだけで、皆はもううっとり……わたしは、音楽の驚き、心揺さぶる力を思いの丈を込めて紡ぎだす! そして―—
2024年2月14日 07:00
少し間を置いて―― 「さあ、そろそろ歌わせてもらいます。……何でわたしがエリザと仲良くなれたのか?出会いの物語……そして、この鉱山への旅の物語!」 わたしは、ギターを慣れた手付きでケースから出し、エリザの傍らで立ち位置を決めた。……いつの間にか、最初円を描いてわたし達を取り巻いていた観客……鉱山の住人は、半円を描いてわたし達の前に陣取っている……思い思いの姿勢で、立ったままの者もいれば、地べ