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LBOについて

今回はコーポレートファイナンス絡みのnoteである

昨今の日経新聞やメディアなどで以前にもましてPEファンドのような企業買収ファンド(バイアウトファンド)の存在が広く知られるようになった。アメリカに比べて日本やや普及が遅れているとは言われていたが、今ではPEファンドは企業にとって重要なパートナーという認識が生まれるまでになってきたと思う

ここでは、バイアウトファンドが一般的に使用するレバレッジドバイアウト(Leveraged Buy-out: LBO)について、数値例も出しながら書いてみようと思う

What does LBO stand for? - LBO概要

LBOとは、その名の通りレバレッジ(借入)を梃にして企業を買収するという買収形態である。有名な案件ではKKRによるRJRナビスコの買収があるが、日本のPEファンドも企業を買収する際はLBOのスキームの元で買収することが殆どである。(ちなみに、LBOローンなしで買収することを、フルエクイティによる買収という)

図にすると以下のようなイメージになろう

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例えばあるファンドXが100億円で企業Aを買収したいとする。しかしファンドXは手元資金(エクイティ)で当該買収に使用できる資金は40億円までしかない。そこで残りの60億円分をレンダーである銀行と交渉し、LBOローンを獲得するのである。(実務上は銀行は業種や昨今のローン市場の状況を踏まえてEBITDAの何倍まで借りれるか、金利の水準は・・といった諸条件を含めて交渉する)

ちなみに上記図におけるSPCとはSpecial Purpose Company: 特別目的会社のことを指し、買収に際し設立される、いわば”ファンドの受け皿会社”のようなものと捉えて頂けたらと思う。SPCではなく、SPV:Special Purpose Vehicleということもある

ファンドXは40億を元手に投資し、企業が生み出す将来キャッシュフローを担保にLBOローンの借入60を実行し、100億の企業を買収する。そして3-5年後のExit (投資の売却もしくはIPO)にむけてリターン獲得ができるように粉骨砕身する。

このように、LBOローンは個人が住宅を購入する際に検討する住宅ローンと似ていると感じると思う。実際その理解で概ね問題はないが、よりよく理解するために以下のセクションも参考にされたい

LBOのリターン計算例

ここではシンプルな例を用いてLBOのリターン計算をしてみよう。まず一般的にLBOモデルを作成する際は、source of funds/use of fundsのテーブルを作成する。以下が今回使用するモデルのsources(買収資金)とuses(買収資金の使途)である

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Use of fundsから説明すると450が買収対価、デットのリファイナンスが50ある。ここでリファイナンスとは買収対象会社の既存の借入金の返済を指している。

ここで注意したいのはTotal uses = c+d=500 = e + f + Equity=Total sourcesになる点である。モデル上は、まずUse合計を確定させ、合計からLBOローンを差し引いてSponsor equity (ファンドの出資分)を計算する

Source of fundsはその名の通り、買収に関する資金源である。LBOローン300は銀行から借り入れたもの、Existing cash25は対象会社のBSに計上されている現金及び現金同等物から必要最低現預金を控除したもの、そして最後に残るのがファンドXの出資分175である。この設例ではLBOローンは可変としている

この時5年後にExitするとして以下のような仮定を置いていたとしよう(Exit時点でのネットデットはゼロと仮定)

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即ち、Exit時点のEV/EBITDA倍率は10x、Exit時点でのEBITDAは60としている。なお、参考に買収時点でのバリュエーションは以下の通りとする。

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つまり、Exit時点ではEBITDAは50から60に成長し、EV/EBITDAマルチプルはエントリーからExitにかけて9.5xから10xに増加することになっている。この時のリターンを計算すると以下のようになる

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この時、投資時点のファンドXの出資分175は、Exitする5年後には600になっている。これをIRRで計算するとIRR = (600/175)^(1/5)-1 = 27.94%というリターンが計算される

キャッシュマルチプル(MOIC:Money of Invested Capital,投下資本倍率のこと)は、600/175 = 3.43xとなる

感応度分析の結果は以下のようになる

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一般的にはIRRは20%を超えていることが望ましいとされ、この設例では28%ものリターンをはじき出している。これはひとえに、Total sourceの60%を占めるLBOローンによりファンドXの出資分が175となり、レバレッジの妙味が活かされているためである

一方でExitマルチプルを10xのままで、LBOローンが200までしか借りれない場合は上記の感応度分析の結果にあるようにリターンは17%と、20%を下回ってしまう。200のLBOローンで20%のIRRをはじき出すには、上記感応度分析のテーブルの11x超でExitしないと、達成できないということがわかる。

今回の設例では記載していないが、LBOローンが200(即ちTotal sourcesの40%しか借りれない状況)ではエントリーマルチプルをいかに低くするかが投資の成功の可否を決めることになる

LBOによる買収に向く企業とは

以上の設例では財務3表のモデリングをせずに、シンプルにExitマルチプルとEBITDAの増加によりLBOによりリターンが出るということを示すことができた。

実際にはsources/usesの仮定もさることながら、projectionに基づいた財務3表のモデリングと、LBO Loanの返済計画を加味してモデリングするのでもっと複雑である・・

ではファンドが買収する際に、どのような企業が望ましいのだろうか。色々と考えられるが、例えば以下のような性質を持つ企業が考えられる。

①:設備投資の負担が小さい

②:安定したキャッシュフローを創出できる

③:業界内でニッチかつリーディングポジションにある

④:景気変動によるボラティリティが少ない

①については、キャッシュフローの観点から設備投資負担が大きいとDebtの返済に回せるキャッシュフローが少なくなりLBOスキームのもとでデットの返済がしづらい=リターンが出しづらいというデメリットがある。ゆえに設備投資(CapEx)は少ない方が望ましい

②については、LBOによる買収自体が対象会社が生み出すキャッシュフローを担保にしているものなので、潤沢なキャッシュフローを創出できる企業が好まれる。そのためにPEファンドが買収する際は財務DDなどでFCFコンバージョンは分析対象になることが多い

③については、買収した企業が業界内で過当競争に巻き込まれず、競争優位性を保っていることがキーになる。特に製品やサービスに独自性や競争力があることで、安定した業績や、エンドマーケットの拡大やボルトオン買収(追加買収のこと)によるバリューアップも見込めるという点でビジネスDDで議論になりやすい

④については、②と若干被るものの半導体業界のように景気変動やシクリカリティ(景気循環性)に影響されやすい業界ではなく、景気変動によるキャッシュフローへのインパクトが少ない業界が望ましい。

コロナ前では飲食や外食業界が、安定した需要とキャッシュフローによりPEファンドの投資先として選好されやすかったが、コロナ後は想定外の外出規制や消費冷え込みにより業績悪化の憂き目にあった。バイアウトファンドの投資も予想だにしていなかった変化で失敗してしまうリスクもはらんでいる

今回はやや簡易的ではあるがLBOについて概要を整理してみた。今後も機会があれば、もう少しディテールなところを書いていこうと思う

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