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アメリカン・ポップス・クロニクル Extra Edition British Pop #02

1950年代半ば、イギリスの若者たちが聴いていたラジオ局は、ラジオ・ルクセンブルクという放送局でした。イギリスでのラジオ局は国営のBBCしかなくて、さらにポップスの放送は1日45分に制限されていたそうです。刺激を求める若者たちは、ルクセンブルク大公国のラジオ放送から雑音混じりで、アメリカのヒット曲を聴くしかありませんでした。

1955年、アメリカで映画Blackboard Jungleが公開され、主題歌のロック・アラウンド・ザ・クロックが大ヒットすると、イギリスでも8週連続1位となり、ビル・ヘイリーはイギリス公演を行うという人気ぶりでした。

イギリスでもロックンロールのビートを持った曲を作ろうと抜擢されたのが、ギタリストのロニー・ドネガンで、元々フォークソングだった"Rock Island Line"をテンポを速めて録音させてシングル・リリースすると、本国イギリスで8位、米国でも8位とヒット曲になり、ここから英国でスキッフル・ブームが始まったといわれています。

その当時のイギリスの若者同様に、クリフ・リチャードもこのスキッフル現象に影響を受けて、音楽活動に興味を持ち始めました。

1940年10月14日、インドのラクナウでハリー・ロジャー・ウェッブとして生まれたクリフ・リチャードは、1948年にインドがイギリスから独立した時にインドを離れて、ロンドンの郊外、サリー州カーシャルトンに移り住みました。

1957年、ヴォーカル・グループのThe Quintonesを結成、その後The Dave Teague Skiffle Groupで歌っていました。やがて彼は、ドラマーのテリー・スマート、ギタリストのケン・ペインと組んでドリフターズを結成して、ロンドンの有名なコーヒー・バー「21's」で演奏するようになっていき、マネージャーのハリー・グレートレックスの目に留まるほどの人気となり、ハリー・グレートレックスはロジャー・ウェッヴに改名を提案、クリフ・リチャードと名乗るようになりました。

1958年、クリフ・リチャードはEMIと契約して、最初のシングルは当初"Schoolboy Crush"を予定していましたが、テレビ・プロデューサーのジャック・グッドはB面の"Move It"に魅力を感じて、AB面を入れ替える事を提案すると、グッドは彼の番組等で大々的に宣伝を展開して、英国チャートで2位となるヒットになりました。

クリフ・リチャードは、このヒットで一気にイギリスのトップ・ロックンローラーになりました。59年には、シングル5枚目"Living Doll"、6枚目"Travellin' Light"が連続チャート1位に輝き、"Living Doll"録音時からバンドのメンバーも入れ替えがあり、ギタリストのハンク・マーヴィン、ギタリストのブルース・ウェルチ、ベーシストのジェット・ハリス、ドラマーのトニー・ミーハンという編成になり、バンド名もドリフターズからシャドウズと改めました。

59年2月、アビーロードのスタジオ2で、熱狂的なファンを前にライブ録音されたアルバムが『Cliff』というタイトルでリリースされ、英国アルバム・チャートで4位を記録するヒットになりました。バンドは単体でも録音活動を行なっていて、ドリフターズ名義でシングルを2枚、シャドウズとしても59年に1枚リリースして、ヴォーカルも披露しています。

クリフ・リチャードは、ジャック・グッドのテレビ番組『Oh Boy!』に頻繁に出演していて、より広い層にアピールしていました。また、彼にとって初の映画となる『シリアス・チャージ』に出演し、それは音楽映画ではなくて、骨太な少年非行ドラマで重要な脇役を演じて、彼自身の新しい面も見せていました。シャドウズも共演したコメディ・ドラマ『エクスプレッソ・ボンゴ』では、メジャーなポップスターに生まれ変わった平凡な歌手を演じていて、「音楽業界を扱った映画の中で、最も明解でユーモアのある映画の一つであり、リチャードの多彩な才能を発揮する興味深い手段であることが証明された」と評されていました。

シャドウズはイギリスのトップロックンロールバンドとなり、クリフ・リチャードの歌手活動が徐々にポップスやバラードへと移行していくなかでも、その地位を維持していました。そして1960年6月、バンドはジェリー・ローダン作曲のインストゥルメンタル曲"Apache"を録音し、5週間にわたってチャート1位を獲得していました。

シャドウズはその後3年間で"Man of Mystery"('60 #05)、 "F.B.I."('61 #06) 、"The Frightened City"('61 #03)、"The Savage"('61 #10)、"Guitar Tango"('62 #04)、とチャート上位に入るヒットで、"Kon Tiki"('61)、"Wonderful Land"('62)、"Dance On!"('62)は首位を獲得しました。

1960年代初頭のクリフ・リチャードは、シングル、アルバムともにリリースが相次ぎ、映画もミュージカル映画を中心に公開されていきました。60年には5枚のヒット・シングルをリリースして、全てがドップ3に入るという好調ぶりを見せました。また、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドのファン層の開拓にも積極的に取り組んでいました。

1960年代前半のクリフ・リチャードのひとつのピークは、映画『The Young Ones』とその主題歌のヒットにありました。楽曲は「ハンク・マーヴィンの印象的なギターワークが光る、青春への輝かしいポップ・アンセム」と評され、映画では、彼の銀幕での魅力が確認できる作品になっていました。63年の『Summer Holiday』や64年の『Wonderful Life』も人気のある作品でした。

62年の"The Next Time" は英チャート1位、そのB面の"Bachelor Boy"はクリフが共作者としてクレジットされ、全英3位とヒットして、65年の "The Minute You're Gone"がまたしても全英1位と好調を維持していました。

60年代半ばのブリティッシュ・インヴェイジョンやビート・グループの台頭に同調するような流れには乗りませんでしたが、クリフ・リチャードは新鮮な作品を生み出し続けて、イギリスではトップ10に入りを続けていました。1966年にキリスト教の原理主義者となり、当初はポップミュージックをやめようとしていましたが、彼は自分の声を使って神への信仰を広める活動をしました。

クリフ・リチャードはイギリス代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場し、1点差で首位に立つことはできませんでしたが、彼の曲"Congratulations"はイギリスをはじめ多くの国(ドイツでは7週間1位をキープ)でチャート上位に入り、100万枚以上を売り上げ、彼にとって5枚目のゴールドディスクとなりました。彼とシャドウズは別々の道を歩むことになっていきました。

(2022/07/11)

Extra Edition British Pop #01 (2022/07/04)

ch.7

Sunshine Pop (2022/05/05)
Genius Producer #01 (2022/05/09)
Blue Eyed Soul (2022/05/16)
Genius Producer #02 (2022/05/24)
Songwriters Series #05 (2022/06/07)
Genius Producer #03 (2022/06/16)

ch.6

1.Songwriters Series #01 (2022/03/19)
2.Songwriters Series #02 (2022/03/26)
3.Songwriters Series #03 (2022/03/31)
4.Songwriters Series #04 (2022/04/05)
5.A&M Records (2022/04/11)
6.Folk Rock 1965-69 (2022/04/17)

ch.5

1.The Boy I Love (2022/03/03)
2.Flip and Nitty (2022/03/06)
3.Tedesco and Pitman (2022/03/08)
4.Twilight Time (2022/03/10)
5.This Could Be The Night (2022/03/12)
6.1964年のNo.1ヒットソング (2022/03/15)

ch.4

1.ビートにしびれて (2022/02/13)
2.Power Blues & Sophisticated Soul (2022/02/18)
3.I'll Go Crazy (2022/02/20)
4.Do You Wanna Go With Me (2022/02/23)
5.I Got Lucky (2022/02/25)
6.The Lovin' Touch (2022/02/28)

ch.3

1.サーフビート・ゴーズ・オン (2022/01/29)
2.A Sunday Kind of Love (2022/02/01)
3.夜明け前の月光 (2022/02/03)
4.West Coast R&B (2022/02/05)
5.くよくよしないぜ (2022/02/06)
6.誰にも奪えぬこの想い (2022/02/10)

ch.2

1.シビレさせたのは誰 (2022/01/14)
2.ブロンクス・スタイル (2022/01/15)
3.ツイストが2度輝けば (2022/01/21)
4.太陽を探せ (2022/01/22)
5.1961年のNo.1 R&Bソング (2022/01/25)
6.Romancing the '60s (2022/01/27)

ch.1

1.1959年のNo.1ヒットソング (2021/12/31)
2,1960年のNo.1ヒットソング (2021/12/31)
3.1960年のヒットソング (2021/12/31)
4.インストゥルメンタル・ヒット (2022/01/04)
5.60'Sポップスの夜明け (2022/01/05)
6.R&B、ソウルミュージックの躍進 (2022/01/07)

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