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#掌編
月明かりが透明【掌編】
雨上がりの匂いがアスファルトから香る。湿ったアスファルトの皮膚を照らす月明かり。僕の踵から弾け飛ぶ滴にも月明かりが跳ね返る。薄いガラスを弾いたような音が聞こえる気がする。
雲の隙間から月が覗く。満月だ。纏わりついた雲に滲む月明かり。薄い雲では到底受け止めきれず、この地上に降り注ぐ。
目を背けたい、悲しみや、痛みや、後悔なんかを、浄化してくれるんじゃないか、そう期待してしまうほどに、月明かりが
アイスピック【掌編】
「あなたは私を見捨てるのね」
母は憎しみを込めた目で私を睨むと、アイスピックを手に取った。
逃げなければいけない、のに、何故か、体中から力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。立ち上がることも出来ない。声を上げることさえも。ただ、目を固く閉じることしか出来なかった。
悲鳴がした。私の声帯は閉じられたままだったから不思議に思い、目を開けた。
グレーの絨毯にどす黒い何かが飛び散っている。それ