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征服者

 休み時間なんていらない。学校なんて勉強する場所なんだから。ただただ勉強して、休み時間を削った分早く帰宅したい。
 学校に友達はいない。作り方がわからない。
休み時間は暇で仕方なかった。机に頬杖をつき、教室の窓から見える空に何か意味でもあるような素振りをしながら、クラスメイト達を観察したりしている。すると、彼らがうっかり本性を現す瞬間を見つけたりも出来る。
「邪魔」
 人気者のあの子は、私とすれ違う時そう呟く。いじめというほどでもないので、気にはしていない。それに誰かに言ったところで誰も信じないだろう。だけど、おそらくクラスで一番意地悪な子。
「あげる」
 派手なあの子は、私に時々お菓子をくれる。一人ぼっちの私に同情してくれているのかもしれない。素行の悪さでよく先生に怒られている問題児。だけど、おそらくクラスで一番優しい子。
あの子はいつも笑顔だけど、時々悲しそうな顔をする。あの子は優等生だけど、人によって態度を変える。あの子は毎日楽しそうにしているけど、本当は退屈で仕方ない。
空気のような私の前では、彼らは気が緩んでつい本性をこぼしてしまう。そして、見たくもないのに見てしまう。知ってしまう。
 彼ら一人一人の本性を暴露したら、このクラスは一体どうなるのだろう。この小さな世界を影で牛耳っているのは、実は私なんじゃないか。なんて。
 もちろん、そんなことはしない。もしそんな愚かなことをしたら、彼らは私を警戒し、本性を現さなくなってしまうだろう。そんなのつまらない。
 私はさらに空気になりたい。透明になりたい。彼らの本性が知りたい。人間がどういうモノなのか教えてほしい。
 それって、英語や数学よりずっと重要な学問だ。学べるなら、休み時間も悪くない。ああ、私はなんて勤勉な生徒なのだろう。
 休み時間のベルが鳴る。私は机に頬杖をつく。窓から差し込む光が私の身体を透明にしていった。

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