あめ
イラストたち
短いお話です
日記みたいなもの
男性と偽った女性二人の恋愛のような友情のようなお話。
お世話になっております。 カドブン×note ショートストーリー投稿コンテスト「#一駅ぶんのおどろき」に応募した作品「リボルバー」がグランプリを受賞いたしました。 「リボルバー」は以前からコツコツ書きためていた掌編小説の一つです。当時は300文字程度でした。 コンテストは1000文字程度ということでしたから、少し書き直して応募させていただきました。 短いお話を書くのは以前から好きだったのですが、せっかく書いても応募出来るようなコンテストをあまり見かけなかったので、今回
乗車したタクシーが空へと舞い上がる。 「どちらまでいかれますか?」 隣の運転席は無人。スピーカーから流れる声に 「クジラ通り三丁目」 と答える。 「かしこまりました」 スピーカーから返答がある。 金曜日、19:33、僕はタクシーに乗って、君の住むクジラ通り三丁目へと向かう。 眼下には星屑みたいなネオン。あの光の一つ一つには、誰かが息づいているというのに、見下ろすとただただ輝いているだけの、無機質な街の風景としか認識できない。初めてタクシーに乗ったあの日は、この輝き
エコバックを忘れた。仕方がないからネギは背中のリュックに突き刺した。 「ネギを買ってきて」 と同棲中の彼女から頼まれた。だったらいいけど、そうじゃない。一人暮らしの僕の夕食を少しでも美味しくするためには、ネギがどうしても必要だった。だから、仕事帰りに買っただけ。 僕は背中にネギを差したまま、自転車で自宅アパートへと向かう。 今日も馬鹿みたいに暑すぎる熱を放出していた太陽が、ようやく地に沈もうとしている。沈みかけている癖に、未練がましい光を放出して、空を染め上げている。
当然だ。「別れたい」君から届いたメッセージ。 ここ数か月、君と休みを合わせることが出来なくて、ずっと会えていなかったから。それでも、マメに連絡を取っていたら、よかったのかもしれないけれど、出来なかった。仕事が終わったら、少しでも早く帰宅して、食事をして入浴して、一分でも長く眠りたくて。余裕がなかった。その程度の気持ちだったのかと問われそうなので、言い訳には出来ない。だから、僕は 「ごめんね」 そう一言、返信した。 既読にはなったけれど、返事はなかった。 君と別れて
ネコ先輩が死んだ。 友人の達也から、スマホにメッセージが届いていた。確認したのは休憩中。コンビニで買ったサンドイッチを食べ、デザートの杏仁豆腐の最初の一口を味わっていた時だった。 「ネコ先輩、亡くなったらしい」 杏仁豆腐の味が舌の上から消えていった。 メッセージが届いたのは、およそ10分前。達也もちょうど休憩時間なのだろう。 「は?」 「この前、職場の同僚と『たんぽぽ』に飲みに行ったんだけど、店長から聞いたんだ」 達也は僕が大学生の頃のバイト仲間だ。『たんぽぽ』は働
分厚い灰色の雲が白く光った。続けて雷鳴。降り出しそうだ。雨が。傘は持っていない。だから、私は足を速めた。待ち合わせ場所には、後十分。あの人の車が待っているはず。持ちこたえてくれたら、私は、濡れずに助手席へ座れる。一時間近くかけたメイクやヘアセットが台無しになりませんように。 ヒールの音が私の脳をノックする。おいおい、正気ですかと。 これまで、あの人が、私のメイクやヘアスタイルを褒めてくれたことが一度でもあっただろうか。雨に濡れたところで、きっと気づきやしない。あの人が興
艶々と光るスイカの表皮を睨みながら、腕を組んでいるのは僕だ。 何年スイカを食べていないだろう。 子供の頃、夏になると父は決まって、スイカを一玉買って来た。僕は三人兄弟の長男で、次男と三男、父と母、五人家族で、そのスイカを切り分けて食べた。口の周りを果汁だらけにして、種をふざけて飛ばし合ったりして、笑いあいながら、皮の白い部分ぎりぎりまで食べた。大きな一玉は一瞬でなくなった。 大人になってから、スイカを食べる機会は減った。スイカのことが特別好きなわけでも、嫌いなわけでも
月を踏みそうになった。 雨で濡れたアスファルトに、映し出される月の姿。かと思ったら、それは、街灯の光であった。人気がなく、足音さえも夜空に反響するほどに静かな夜。足元には、月の姿に化けた街灯の光が連なり、俺の進むべき先へと誘っている。 傘を持つ手には、雨の滴が弾ける僅かな振動が伝わってくる。足音よりも小さな雨音が心地いい。 顔をあげ、街路樹の青葉を見上げると、雨粒が涙のように悲しく滴っている。 氷のように冷たい風が、俺の頬を指先で撫でるように吹いた。風が吹いた先を見
上田市美術館で開催中の「特撮のDNA」へ行って来ました。 入場口ではゴジラがお出迎え 入り口のお姉さんにチケットを見せて説明を受ける。 写真撮影とSNS投稿はオッケーで動画やフラッシュは禁止だそうです。 ワクワクしながら入場。 劇場版第1作目のポスター なんかマヌケな表情のゴジラ ゴジラの卵 迫力のある顔 たまらんです 尻尾長くて美しい 家に飾りたい ゴジラの骨 物悲し ゴジラがいっぱいいる 嬉しい ゴジラの皮膚 目がくりくり モヒ
狼のマスクを被った男。細身で長身。背筋が伸び凛としている。彼はライフル銃を手にゆっくりとした動作でステージに上がる。 ステージの中央には講演台があり、さきほどまで熱弁をふるっていた50代の県会議員の男がいた。その男は両手を挙げている。兎の仮面を被った男がこめかみにライフルの銃口を当てているからだ。 満席の観客席からは悲鳴が聞こえる。席を立とうとする者もいる。しかし、このホールの出入口は、鶏の仮面を被った者、猫の仮面を被った者、犬の仮面を被った者、梟の仮面を被った者、狐の
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君。 あなたに流れるあつきもの。 それを、どうか、私に飲ませてください。 見返りなどいりません。 ただ、あなたは、目を閉じ、夢心地でいればよいのです。 春雨に濡れ、穏やかに、眠っていればよいのです。 小琴の音を互いに奏でましょう。 雨滴る葉の下で、迷いながらも、互いの熱さ通わせ、泉の底まで参りましょう。 匂い立つ、くれないの薔薇を探し、唇を重ね、あなたの歌の中で、泣きたい。 指と指とを絡ませ、秘めて放たれる吐息の音を聞きたい
入道雲を横向きに見ていた。 畳に寝転がり、開け放った窓から夏空を眺める。私の頬にはすでに畳の跡がついている。どれくらい、この態勢で過ごしていただろう。とにかく、今日は、何もやる気が起きない。夏バテというやつなのかもしれない。 扇風機から送られてくる生温かい風が、私の前髪を揺らしている。自分で切り過ぎた前髪。これくらいの失敗ならいい。だって、前髪はまた伸びる。取り返しがつく。だけど、取り返しのつかない失敗というものもある。 首元を汗の粒が滑り落ちていく。畳の網目に消えて