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青葉闇

 そこにいるのはわかってる。息をひそめて機会をうかがっているんだろう。
 僕はソレと目を合わせないように歩みを進める。しかしソレはひたひたと後をつけてくる。隙間から入り込もうとしている。鎧のようにまとった正しさの僅かな隙間から。僕の弱い部分。自覚している。自覚しているのにいまだに強くなれない。僕はソレに見透かされている。強くなりきれない僕の不甲斐なさや後悔や罪悪感さえも。
 艶々とした青葉の上で跳ねる光達。彼らは無邪気に輝きを放っている。眩すぎる。目を細める。つい光から目を逸らしてしまいそうになった。慌てて光に視線を戻す。危ない。光のない場所にはソレがいる。
 光の中で平気でいられるほど、僕は強くはない。けれど、ソレに身を委ねてしまったら、蝕まれてしまうことはわかる。蝕まれたら僕は僕じゃなくなる。バケモノになる。だから、必死で光の中を歩むしかない。
 葉脈のアーチを滑り台にして光の粒がジャンプする。僕の足元でバウンド。一粒、二粒、三粒……。
「こっちにおいで」
 光の粒達が僕を手招きした。僕は進む光の粒へついていく。
光の粒がバウンドするたびに、鈴の音に似た音が鳴る。その音に歩調を合わせると、僕の踵からも軽快な音が鳴り始めた。シンバルに似た甘酸っぱい響き。
リンリンリンリン……。
シャンシャンシャン……。
風が吹いて青葉を揺らす。葉脈の滑り台から光の粒がジャンプ。増殖していく光の粒達。それぞれバウンドしている。僕の足元はまるでカーニバルだ。
リンリンリンリン……。
シャンシャンシャン……。
「君ももっと跳ねなきゃ」
 光の粒達が僕を見上げる。
 シャンシャンシャン……。
 僕は跳ね回る光の粒達を見習って大きくジャンプする。青空に手が届くほどに。
 剥がれ落ちて行くのがわかった。ソレが。

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