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読書感想

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本の感想や書評を書いた記事です。主に小説について書いています。一部のノウハウや個人的な話は有料にさせていただいています
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2022年6月の記事一覧

江國香織さん『すいかの匂い』『東京タワー』読書感想

江國香織さん『すいかの匂い』『東京タワー』読書感想

江國香織の良さはいくつもありますが、漢字で書きそうな箇所をひらがなにする審美眼が独特なので、それについて書いてみます。江國さんは、絵本作家というキャリアもあるからか、ひらがなに対するこだわりというのか、独特の目線を持っています。

江國さんの小説である『すいかの匂い』の解説には、「江國さんは漢字とひらがなにも独特の選択眼を持っている。(中略) 文章の中での、言葉の力の入れ方を決めるために、江國さん

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江國香織さん『すいかの匂い』読書感想 夏の本です

江國香織さん『すいかの匂い』読書感想 夏の本です

熱くなってきたので、涼し気な夏の本を紹介します。この本は、わたしが中学生くらいのときに読んでから何度も読み返している本のひとつです。15ページほどの短編が11本入っています。この本は、きれいな夏の和菓子の詰め合わせを眺めているような気持ちにさせてくれる本です。

この本には川上弘美さんの解説も入っていますので、そちらと絡め、感想を書いていきます。川上弘美さんは『センセイの鞄』など興味深い作品を書い

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遠野遥さん『改良』 読書感想

遠野遥さん『改良』 読書感想

図書館で遠野遥さんの『改良』を借りて読んだので、感想を描きたいと思います。ネタバレ含みます。
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028460/

容姿を気にする心理や、暴力などのシーンも出てきますが、この小説は差別について描いている小説という印象を受けました。

まず、遠野さんの語りの独特な良さがあって、何かというと、あらゆる可能性をいったん考えている

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江國香織さん『東京タワー』読書感想

江國香織さん『東京タワー』読書感想

この本は、高校生のときにはじめて読んで、すごく憧れたのを覚えています。大人になって読むとまた違う感触がする本のひとつです。

自分が好きな箇所というよりは、文や構成の分析などを書いてみたいと思います。ネタバレ含みます。

まずタイトルの『東京タワー』は、東京タワーは見守ってくれるおじさんのようだ、という描写が出てくることに由来しているのだと思います。この作品は透と耕二というふたりの青年の、結婚して

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中村文則さん『銃』読書感想

中村文則さん『銃』読書感想

この小説は人間の暗い部分をひきずりだして書いている作品ですね。もともと本屋でたまたま見つけて読んだ中村さんのエッセイ集『自由思考』を読み、その本が面白く、著作も読んでみようと思い、『銃』を読んでみました。この作品は中村さんのデビュー作だそうです。

感想というよりは、どういうテクニックを使って小説世界にひきずりこんでいるのかということを、著者のエッセイをもとに、考えてみたいと思います。ネタバレ含み

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遠野遥さん『破局』読書感想

遠野遥さん『破局』読書感想

この本は、どこかで読んだ書評の中の「肉食なのに、乾いている」という表現がしっくりくる内容の、不気味でありつつ、どこかからっとしている本です。この前、遠野さんの『改良』を読み、他の本も読んでみようと思い、『破局』を図書館で借りてきました。すごく整理されたきれいさなので、たぶん本名ではないのだと思いますが、遠野遥という名前もなんだか好みです。何がなのかは不明ですが、遠く遥かに、ってことでしょうか。わた

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